核心概念
組成的に完璧なCr1/4TaS2単結晶において、異なる超格子構造を持つドメインが共存し、それらの間の散乱が異常ホール効果を含む複雑な磁気輸送特性を引き起こす。
要約
研究概要
本論文は、新規物質Cr1/4TaS2の合成と、その特異な磁気輸送特性に関する研究論文である。Cr1/4TaS2は、バルクな非共線反強磁性体であり、Cr原子が規則的に配列した2×2超格子構造を持つ。しかし、高品質な単結晶であっても、わずかながら異なる超格子構造(√3×√3)を持つドメインが共存することが明らかになった。
実験結果
- 比熱測定と中性子回折測定により、Cr1/4TaS2は145 Kでバルクな反強磁性転移を示すことが確認された。
- 電気伝導測定では、145 K以下で異常ホール効果が観測された。これは、反強磁性秩序に伴うものと考えられる。
- 磁化測定の結果、100 K以下で磁化率の上昇とゼロ磁場冷却・磁場冷却過程の履歴依存性が観測され、少数の強磁性ドメインの存在が示唆された。
- 共焦点ラマン顕微鏡、電子線回折、4次元走査透過電子顕微鏡(4D-STEM)観察により、2×2超格子構造を主体としながらも、√3×√3超格子構造を持つドメインがナノスケールで共存していることが明らかになった。
考察
- √3×√3超格子構造を持つドメインは、結晶成長過程において、熱力学的に安定な2×2構造への変化が完了する前に、運動学的に凍結されたものと考えられる。
- √3×√3構造を持つドメインは、Cr1/3TaS2と同様に強磁性秩序を示すことが知られており、これが100 K以下の磁化率の上昇と異常ホール効果の起源と考えられる。
- Cr1/4TaS2の異常ホール効果は、異種超格子ドメイン間の散乱に起因する外因性機構によって説明できる。
結論
本研究は、Cr1/4TaS2において、組成だけでなく結晶成長条件が超格子構造と磁気輸送特性に大きく影響することを示した。異なる磁気秩序を持つ超格子ドメインを制御することで、スピントロニクスデバイスへの応用が期待される新規材料の開発につながる可能性がある。
統計
Cr1/4TaS2のネール温度は145 K。
Cr1/4TaS2の異常ホール伝導率は、50 Kで約9 Ω-1 cm-1の最大値を示す。
Cr1/4TaS2中のCr原子の有効磁気モーメントは、3.76(8) µB/Crと算出された。
強磁性転移温度は、Arrottプロットから98 Kと決定された。