核心概念
層状カルコゲニドCr$_{1+\delta}$Te$_2$は、ベリー曲率の競合により真性異常ホール効果が抑制される。
要約
Cr$_{1+\delta}$Te$_2$における競合するベリー曲率による真性異常ホール効果の抑制: 研究概要
本研究は、層状カルコゲニド化合物であるCr$_{1+\delta}$Te$_2$ (δ ∼0.33)の磁気特性、磁気輸送特性、電子構造について、実験と理論の両面から包括的に調査したものです。
結晶構造と磁気特性
Cr$_{1+\delta}$Te$_2$は、層状の三方晶構造を持ち、結晶学的c軸に沿って層が積み重なっている。
磁化測定と磁気輸送測定から、磁化容易軸がc軸方向である強い磁気異方性を示すことがわかった。
磁化率の温度依存性をキュリー・ワイス則でフィッティングした結果、キュリー・ワイス温度は正の値となり、強磁性交換相互作用が支配的であることが示唆された。
磁化の温度依存性測定において、加熱時と冷却時の曲線間に熱ヒステリシスが観測された。これは、一次磁気転移を示唆するものである。
熱ヒステリシス領域において、等構造格子異常も観測され、磁気モーメントと格子の結合を示唆している。
磁気輸送特性
異常ホール効果を示し、その大きさは組成や温度に大きく依存する。
ホール効果の解析から、異常ホール効果への寄与は、主に外因性のスキュー散乱に由来することが示唆された。
バンドトポロジーに由来する真性異常ホール効果は、観測されなかった。
電子構造とベリー曲率
第一原理電子構造計算を行い、真性異常ホール効果が存在しない理由を調べた。
運動量空間における高対称方向に沿って、フェルミエネルギー近傍にノダルポイント(バンド交差)が存在することがわかった。
c軸方向の磁気秩序とスピン軌道相互作用の存在下では、ノダルポイントにおける縮退が解け、DFT+SOC計算により、正と負の両方のベリー曲率値が異なる交差点に存在することが明らかになった。
ベリー曲率の値は大きいが、互いに相殺し合うため、バンドトポロジーに由来する真性異常ホール効果は無視できる程度になる。
研究の意義
本研究は、Cr$_{1+\delta}$Te$_2$における真性異常ホール効果の抑制が、ベリー曲率の競合に起因することを明らかにした。これは、層状磁性材料における異常ホール効果の起源と制御に関する理解を深める上で重要な知見である。