核心概念
FRADOモデルを用いてセイファート銀河NGC 5548の観測データを分析することで、活動銀河核の構造と力学に関する理解を深め、ハッブル定数をより正確に決定できる可能性を示唆している。
本論文は、セイファート銀河NGC 5548の観測データを用いて、活動銀河核(AGN)のブロードライン領域(BLR)の形成とハッブル定数決定に関する研究を行っています。
研究の背景
AGNの中心部には、超大質量ブラックホール、降着円盤、BLRが存在します。BLRはブラックホール近傍の高密度ガス雲の領域であり、活動銀河核からの強い放射によって励起され、幅の広い輝線スペクトルを示します。BLRの構造と力学は、AGNの物理状態を理解する上で重要ですが、その詳細はまだ完全には解明されていません。
FRADOモデル
本研究では、BLRの形成モデルとして、Failed Radiatively Accelerated Dusty Outflow (FRADO) モデルを採用しています。FRADOモデルは、降着円盤からの放射圧によって塵が加速され、ガス雲が押し上げられることでBLRが形成されるとするモデルです。
NGC 5548の観測データ
本研究では、NGC 5548の広帯域スペクトルエネルギー分布(SED)と連続スペクトルの時間遅延の観測データを使用しています。これらのデータは、2013年から2014年にかけて行われた観測キャンペーンによって取得されました。
研究結果
FRADOモデルを用いてNGC 5548の観測データを分析した結果、以下の結果が得られました。
FRADOモデルは、観測された広帯域SED、Hβ輝線の時間遅延、連続スペクトルのバンド間時間遅延を合理的に再現することができました。
降着円盤からの時間遅延とBLRからの時間遅延を分離することが可能であり、バンド間連続スペクトル時間遅延を用いてハッブル定数を効果的に決定できる可能性が示されました。
本研究の結果は、Hβ輝線の形成に関するFRADOモデルを支持するものです。
結論
本研究は、FRADOモデルを用いてNGC 5548のBLR形成を研究し、ハッブル定数決定に向けた第一歩を踏み出したものです。今後、より多くのAGNの観測データを用いた研究を進めることで、AGNの構造と力学、そして宇宙論パラメータのより正確な決定に貢献することが期待されます。
統計
NGC 5548 の中心ブラックホールの質量は5 × 10^7太陽質量。
NGC 5548 のエディントン比は0.02。
2014年の観測キャンペーンで測定されたHβ輝線の時間遅延は、5100 Åの連続スペクトルに対して4.17+0.36
−0.3日。
FRADOモデルは、観測されたHβ輝線の時間遅延を約8.1日と予測。
FRADOモデルは、BLRによる放射の遮蔽率が4%未満であると予測。