核心概念
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で観測された初期宇宙の巨大ブラックホールは、従来の天体物理学的種子形成モデルでは説明が困難な場合があり、原始ブラックホール(PBH)が代替的な種子形成メカニズムとして考えられる。
要約
JWSTによる初期ブラックホール観測と課題
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、宇宙誕生後10億年以内の初期宇宙において、予想外に質量の大きいブラックホールを多数発見しました。これらのブラックホールは、その質量だけでなく、従来のブラックホールと恒星の質量比と比較して、極めて高い値を示していることが明らかになりました。この発見は、従来のブラックホールの種子形成と成長に関する理論モデルに大きな課題を突きつけるものです。
従来のブラックホール種子形成モデル
従来の理論では、初期宇宙におけるブラックホールの種子形成には、主に3つのシナリオが考えられてきました。
- 低質量種子(〜10^2 M⊙): 金属を含まない初代星(種族III)が重力崩壊を起こして形成されると考えられています。
- 中間質量種子(〜10^3-4 M⊙): 高密度な星団内での動的な相互作用や、恒星質量ブラックホールの暴走的な合体によって形成されると考えられています。
- 高質量種子(〜10^5 M⊙): 超大質量星の形成、あるいはガス雲の直接重力崩壊によって形成されると考えられています。
しかし、JWSTで観測された初期宇宙のブラックホールの質量を説明するためには、これらの種子形成モデルでは、非常に高い降着率や、非現実的なまでに効率的な成長メカニズムを必要とします。
原始ブラックホール(PBH)による代替的種子形成モデル
本論文では、原始ブラックホール(PBH)が初期宇宙のブラックホールの種子となり得る可能性を検討しています。PBHは、宇宙初期のインフレーション期における密度揺らぎに起因して形成されたと考えられており、その質量は太陽質量の何倍にも及ぶ可能性があります。
PBHは、その周囲にダークマターハローを形成し、物質を引き寄せて成長することができます。本論文では、JWSTで観測されたブラックホールの質量と赤方偏移を説明するために必要なPBHの質量関数を推定しました。その結果、JWSTの観測データは、PBHがダークマターの一部を構成し、初期宇宙の構造形成に重要な役割を果たした可能性を示唆しています。
PBHによる初期銀河形成モデル
さらに、本論文では、PBHが初期銀河の形成にも影響を与えた可能性について考察しています。PBHは、その重力によって周囲のガスを引き寄せ、星形成を促進する効果を持つと考えられます。本論文では、PBHの質量と星形成効率の関係をモデル化し、JWSTで観測された初期銀河の特性を再現できることを示しました。
結論
JWSTによる初期宇宙のブラックホールの発見は、従来のブラックホール形成理論に再考を迫る画期的なものです。PBHは、これらの観測結果を自然に説明できる魅力的な代替モデルであり、今後の観測と理論研究によって、その存在が明らかになることが期待されます。
統計
JWSTの観測により、赤方偏移z∼8.5 -10.6で質量10^6.2−8.1M⊙のブラックホールが発見された。
これらのブラックホールの多くは、ブラックホールと恒星の質量比が𝑀BH/𝑀∗>∼30%と異常に高い。
従来の理論モデルでは、赤方偏移z=25で種子形成が開始すると仮定すると、低質量種子(100M⊙)からのエディントン限界降着では、観測されたブラックホールの質量を説明できない。
中間質量種子(10^4M⊙)の場合、エディントン限界降着では、最も遠いz>∼10の2つのブラックホールを説明できない。
高質量種子(10^5M⊙)からのエディントン限界降着は、現在のすべての観測結果を説明できる。
JWSTで観測されたすべてのブラックホールが原始起源であると仮定すると、PBHの質量関数は10^-5.25 - 10^3.75M⊙の範囲となる。
この質量範囲におけるPBHの質量密度パラメータは、観測的な制限と一致する10^-12以下である。
引用
"With its unparalleled sensitivity, the James Webb Space Telescope (JWST) has been crucial in shedding light on the black hole population in the first billion years of the Universe."
"These early observations have given rise to a number of tantalising issues [including] clearly broadened Balmer lines [used] to infer black hole masses ranging between 10^7−8.6M⊙ at redshifts 𝑧∼6 −8.5."
"Another issue is an over-abundance of black holes in the first billion years."
"[M]any of these early systems show unprecedentedly high ratios of 𝑀BH/𝑀∗>∼30% [that] deviate from local relations at the > 3 −𝜎 level."
"In this work, our aim is to determine whether PBHs that assemble (isolated) haloes around themselves offer a viable pathway for generating the massive black holes detected by the JWST."