核心概念
本稿では、8年間のMUSE多時期分光観測データを用いて、オメガケンタウリ(ωCen)の中心領域における分光連星の検出を行い、連星頻度を報告しています。
要約
MUSEを用いたオメガケンタウリにおける連星系の研究 I. 分光連星の検出
本稿は、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡に搭載された多天体分光器MUSEを用いて、球状星団オメガケンタウリ(ωCen)の中心領域における連星系の探索を行い、その結果を報告した研究論文である。
観測とデータ
MUSEの広視野モード(WFM)で10ヵ所、狭視野モード(NFM)で6ヵ所、計16ヵ所を観測。
観測期間は2015年から2022年までの8年間。
WFMでは各ポインティングを平均15エポック、NFMでは2エポック観測。
各エポックのデータから、37,225個の恒星のスペクトルを抽出。
各スペクトルから視線速度を測定し、その時間変化から連星系を探索。
解析方法
スペクトル分析ソフトSpexxyを用いて、各エポックのスペクトルから視線速度を測定。
視線速度の時間変化から、連星である確率(𝑃var)を計算。
光度曲線からも変光星を特定し、連星候補から除外。
モンテカルロシミュレーションを用いて、観測バイアスを補正し、連星頻度を算出。
結果
37,225個の恒星のうち、275個の恒星が視線速度の変化を示し、連星候補として検出された。
検出された連星候補の割合は、全恒星の約1.4%。
モンテカルロシミュレーションによるバイアス補正の結果、ωCen中心領域の連星頻度は2.1±0.4%と推定された。
この連星頻度は、先行研究と比較して低い値である。
連星頻度は、星団中心からの距離や、恒星の進化段階によらず、ほぼ一定であることがわかった。
ただし、青色はぐれ星(BSS)では、他の進化段階の星よりも連星頻度が高い傾向が見られた。
ωCenの連星頻度が低い原因として、星団中心部の高い恒星密度が影響している可能性が考えられる。
高密度環境では、連星系が他の星との近接遭遇によって破壊されやすいため、観測される連星頻度が低下すると考えられる。
青色はぐれ星は、連星系同士の合体によって形成されると考えられているため、連星頻度が高いのは妥当な結果である。