核心概念
本稿では、近年実現可能となった、SU($N$)対称性を持つ超低温アルカリ土類原子気体という新たな量子シミュレータを用いて、強相関多体系の物理を探求できる可能性について解説する。
要約
超低温アルカリ土類原子気体によるSU($N$)対称相互作用の量子シミュレーション
本論文は、超低温アルカリ土類原子気体を用いたSU($N$)対称相互作用を持つ多体物理系の量子シミュレーションに関する研究論文である。
研究目的
本研究は、近年実験的に実現可能となった、SU($N$)対称性を持つ超低温アルカリ土類原子気体という新たな量子シミュレータを用いて、強相関多体系の物理、特にフェルミハバードモデル(FHM)の物理を解明することを目的とする。
方法
本論文では、まず、アルカリ土類原子の電子構造について解説し、その基底状態や準安定状態において、核スピンが電子構造からほぼ完全に分離しているため、SU($N$)対称性が現れることを示す。次に、このSU($N$)対称性を持つ原子気体を光格子中に導入することで、SU($N$) FHMを量子シミュレートする実験手法について述べる。
主な結果
本論文では、SU($N$) FHMに関する以下の重要な実験結果についてレビューしている。
- SU(6)モット絶縁体の観測:京都大学のグループは、3次元光格子中のSU(6)フェルミ原子気体において、モット絶縁体を実現し、その電荷ギャップを格子変調分光法により観測した。
- 3次元光格子におけるモット転移:ミュンヘンのグループは、3次元光格子中のSU(3)およびSU(6)フェルミ原子気体において、状態方程式を測定し、圧縮率の抑制からモット転移を観測した。
- 2次元光格子における状態方程式とモット転移:ミュンヘンのグループは、2次元光格子中のSU(3)、SU(4)、SU(6)フェルミ原子気体において、状態方程式を高精度に測定し、決定論的量子モンテカルロ法や数値連結クラスター展開法などの数値計算結果と比較することで、系の温度を決定した。
結論
本論文は、超低温アルカリ土類原子気体が、SU($N$)対称性を持つ強相関多体系の物理を探求するための強力な量子シミュレータとして機能することを示している。
意義
本研究は、強相関系の物理における未解決問題に取り組むための新たな道を切り開き、量子情報処理への応用可能性も秘めている。
限界と今後の研究
本論文でレビューされた実験は、主に平衡状態におけるSU($N$) FHMの性質に焦点を当てている。今後の研究では、非平衡ダイナミクスや、SU($N$)ハイゼンベルクモデルやt-Jモデルなどの他のSU($N$)格子モデルの研究などが期待される。
統計
基底状態 $^{1}S_0$ の散乱長のばらつきは $\delta a_{gg}/a_{gg} \sim 10^{-9}$ 程度と予測されている。
励起状態 $^{3}P_0$ の散乱長のばらつきは $\delta a_{ee}/a_{ee} \sim \delta a_{\pm eg}/a_{\pm eg} \sim 10^{-3}$ 程度と予測されている。
SU(2) フェルミ気体と比較して、SU($N$) フェルミ気体の等温圧縮率は、相互作用の斥力が効果的に ($N-1$) 倍になる。
弱く相互作用する2次元気体では、古典的なスケール不変性により、呼吸モード周波数はスピン多重度に依存せず、常に双極子モード周波数の2倍 ($\omega_d$) となる。
平均場効果により、四重極モード周波数は $\omega_q \propto (2\omega_d - g_{2D}(N-1))$ となり、スピン多重度($N$)に依存する。
流体力学領域では、衝突が支配的となり、四重極モード周波数はスピン多重度に依存せず、$\omega_q^{hd} = 2\sqrt{\omega_d}$ となる。
減衰率は $1/\tau \propto (N-1)$ となり、相互作用の効果が増強されていることを示している。
引用
"Symmetries play a crucial role in understanding phases of matter and the transitions between them."
"Ultracold alkaline-earth-atom (AEA) quantum simulators have paved the path to realize SU(N)-symmetric many-body models, where N is tunable and can be as large as 10."
"The enlarged SU(N) symmetry results in enhanced interaction effects in trapped AEA gases."
"Quantum simulation with ultracold atoms in optical lattices (OLs) has provided with an unparalleled avenue to study many-body Hamiltonians relevant to condensed matter physics."