核心概念
本稿では、海面高度データから地衡流運動を抽出するために、動的モード分解(DMD)を用いた新しい手法を提案する。
要約
SWOT衛星高度計データを用いた地衡流運動の動的モード分解: 研究論文要約
書誌情報: Uchida, T., Yadidya, B., Lapo, K.E., Xu, X., Early, J.J., Arbic, B.K., ... & Buijsman, M.C. (2024). Dynamic-Mode Decomposition of Geostrophically Balanced Motions from SWOT Altimetry. JGR: Oceans (投稿中).
研究目的: 本研究は、海面高度(SSH)データから地衡流運動を効果的に抽出するための新しいデータ駆動型手法である、動的モード分解(DMD)の海洋学への応用を検討する。
手法: 本研究では、まず理想化された数値シミュレーションと現実的な潮汐強制サブメソスケール解像北大西洋シミュレーション(HYCOM50)の両方から得られたSSHデータに、DMDの変種であるマルチ解像度コヒーレント時空間スケール分離(mrCOSTS)を適用した。
次に、mrCOSTSによって抽出されたSSHデータの低周波成分から地衡流速度、相対渦度、歪み速度を診断し、地衡流の抽出精度を評価した。
最後に、SWOT衛星高度計の較正・検証(Cal/Val)フェーズ中の1日繰り返し観測データにもmrCOSTSを適用し、その有効性を検証した。
主要な結果:
- mrCOSTSは、理想化されたシミュレーションと現実的なシミュレーションの両方において、SSHデータから内部潮汐や重力波などの高周波信号を効果的に除去し、地衡流運動を正確に抽出することができた。
- mrCOSTSは、SSHデータの時間分解能が低い場合でも、比較的正確に地衡流を抽出することができた。
- SWOT衛星データへのmrCOSTSの適用は、大規模な地衡流構造を捉えることができたが、地衡流の抽出精度にはデータの長さが影響を与える可能性が示唆された。
結論: mrCOSTSは、SSHデータから地衡流運動を抽出するための効果的な手法であり、特に時間分解能が低いデータや、内部潮汐や重力波などの高周波信号を含むデータに有効である。
意義: 本研究は、DMDが海洋学におけるデータ駆動型解析の強力なツールとなりうることを示しており、SWOT衛星などの新しい観測データから海洋循環と地衡流ダイナミクスを理解するための新しい道を切り開くものである。
限界と今後の研究:
- 本研究では、SWOT衛星データの解析期間が限られていたため、より長期間のデータを用いた解析が必要である。
- 今後は、地衡流に加えて、準地衡流や半地衡流などのより高次のバランス運動を抽出する手法を開発する必要がある。
- DMDを用いて、内部波とサブメソスケールダイナミクスの分離の可能性をさらに調査する必要がある。
統計
mrCOSTSは、理想化された波動渦シミュレーションにおいて、地衡流成分とmrCOSTSの低周波成分の間の空間相関が常に0.999以上であることを示した。
HYCOM50シミュレーションでは、mrCOSTSは、3時間ごとにSSH場を与えた場合、COI以外で常に0.99以上の空間相関を示し、12時間ごとの場合でも、堅牢な結果を示した。
SWOTデータの解析では、3ヶ月間の1日分解能データ(時間的に102データポイント)では、最小二乗フィッティングからAAAをロバストに推定するにはデータ量が不十分である可能性が示唆された。
HYCOM50のSSHスナップショット場を1日おきに取得し、8月から10月までの3ヶ月間(ASO)と7月から11月までの5ヶ月間(JASON)の2つの期間でmrCOSTSを適用した結果、JASONケースでは空間相関がCOI以外で0.98以上となり、ASOケースよりも良好な結果が得られた。