核心概念
標準模型(SM)のゲージ群を $U(1){L_e-L\mu}$ で拡張した理論は、ミュー粒子の異常磁気モーメント $(g-2)\mu$ の観測値と予測値のずれを説明する上で、これまで実行可能な方法とは考えられていませんでした。本稿では、TeVスケールのスカラーレプトクォークS1を導入することで、このゲージ拡張を復活させ、$(g-2)\mu$ の観測されたずれを説明できることを示します。さらに、このモデルは、サブGeV質量領域にあるベクトル型のSM一重項フェルミオンχを、実行可能なダークマター(DM)候補として組み込むことができます。
要約
論文情報
- タイトル: The Revival of $U(1){L_e-L\mu}$: A Natural Solution for $(g-2)_\mu$ with a Sub-GeV Dark Matter
- 著者: Bibhabasu De
- 所属: Department of Physics, The ICFAI University Tripura, Kamalghat-799210, India
- 発表日: 2024年10月8日
- arXiv番号: 2410.04399v1 [hep-ph]
研究目的
本研究は、標準模型(SM)のゲージ群を $U(1){L_e-L\mu}$ で拡張した理論を用いて、ミュー粒子の異常磁気モーメント $(g-2)_\mu$ の観測値と予測値のずれ、およびダークマター(DM)の正体を同時に説明することを目的としています。
方法
本研究では、TeVスケールのスカラーレプトクォークS1と、サブGeV質量領域にあるベクトル型のSM一重項フェルミオンχを導入した、拡張された $U(1){L_e-L\mu}$ モデルを構築しました。そして、このモデルが $(g-2)_\mu$ の観測値と予測値のずれを説明できるパラメータ領域を探索し、さらにそのパラメータ領域においてχがDMの観測量を満たすかどうかを検証しました。
結果
- 導入したスカラーレプトクォークS1が、$(g-2)\mu$ に対して追加の1ループレベルの寄与を生み出し、実験的に許容されるパラメータ空間内で $(g-2)\mu$ の観測値と予測値のずれを説明できることがわかりました。
- χは $U(1){L_e-L\mu}$ ゲージボソンZ′ を介してSM粒子と相互作用し、DMの観測量を満たすことがわかりました。
- χの質量がサブGeV領域にあるため、DM-電子散乱が主要な検出プロセスとなり、シリコンやゲルマニウムを用いた検出器で検出可能であることが示唆されました。
結論
本研究で提案された拡張 $U(1){L_e-L\mu}$ モデルは、$(g-2)_\mu$ の観測値と予測値のずれとDMの正体を同時に説明できる、魅力的な枠組みを提供します。
意義
本研究は、素粒子物理学における2つの未解決問題、すなわち $(g-2)_\mu$ の観測値と予測値のずれとDMの正体に対して、統一的な説明を与える可能性を示唆しており、今後の実験による検証が期待されます。
制限と今後の研究
本研究では、DM-電子散乱による直接検出実験に焦点を当てましたが、将来的には、LHCなどの加速器実験におけるS1の探索や、DMの間接検出実験による検証も必要となります。
統計
ミュー粒子の異常磁気モーメントの観測値と標準模型の予測値とのずれは、∆a2023 µ = (2.49±0.48)×10−9 である。
ダークマターの局所密度は、ρχ = 0.4 GeV/cm3 である。
シリコン結晶の密度は、ρT = 2.330 g/cm3 である。
ゲルマニウム結晶の密度は、ρT = 5.323 g/cm3 である。