核心概念
不活性二重項模型において、真空安定性とユニタリー性に基づいた摂動論的制限を考慮すると、暗黒物質の質量には上限が存在し、その質量は質量分割に応じて20 TeVから80 TeVの間で変化する。
要約
研究目的
この研究論文は、素粒子物理学の標準模型を超える理論として提案されている不活性二重項模型(IDM)において、暗黒物質(DM)の質量の上限を理論的に導出することを目的としています。
方法
本研究では、DMの熱的残存量計算に用いられるボルツマン方程式を、共消滅過程を考慮した上で解析的に解いています。特に、DM質量が電弱スケールよりも遥かに重いことを利用し、断面積を質量比の微小パラメータで展開することで、簡潔な解析解を得ています。さらに、模型のパラメータ空間に対する理論的な制限、特に真空安定性とユニタリー性に基づいた摂動論的制限を考慮することで、DM質量の上限を解析的に導出しています。
主な結果
- DM質量の上限は、DM候補粒子と他の新しい粒子との間の質量二乗差の関数として表される。
- 質量二乗差がゼロの場合、DM質量の上限は約80 TeVとなる。
- 質量二乗差が大きくなるにつれて、DM質量の上限は減少する。
- この結果は、DM候補粒子として、CP偶のϕ粒子とCP奇のA粒子のどちらを仮定した場合でも成立する。
結論
本研究の結果は、IDMにおけるDM質量に上限が存在することを示しており、将来のDM探索実験にとって重要な指針となります。
意義
この研究は、IDMにおけるDMの許容されるパラメータ空間を制限することで、将来のDM探索実験の設計および解析に重要な情報を提供します。特に、将来のガンマ線望遠鏡は、本研究で示された質量領域のDMを探索できる可能性があり、IDMの検証に貢献することが期待されます。
制限と今後の研究
本研究では、DM質量が電弱スケールよりも遥かに重いことを仮定した解析を行いましたが、より精密な制限を得るためには、電弱スケール程度の質量のDMに対しても同様の解析を行う必要があります。また、本研究では考慮していない、高次補正や非摂動論的効果の影響についても、今後さらに詳しく調べる必要があります。
統計
熱的残存断面積は、2.2 × 10^-26 cm^3/s から 3.0 × 10^-26 cm^3/s の間であると仮定された。
DM質量が500 GeVから105 GeVの範囲では、熱的残存断面積は約2.6 × 10^-26 cm^3/s であることがわかった。
質量二乗差がゼロの場合、DM質量の上限は約80 TeVとなる。
引用
"It has been noted in the literature that in the IDM, the correct DM abundance can be achieved if the DM mass is either lower than the W mass, or heavier than 500 GeV [13, 14]."
"The low mass region is tightly constrained by the invisible decay width of the Higgs boson measurements [15, 16], direct DM detection experiments [17, 18], and indirect DM detection experiments [19]."
"The high mass region, on the other hand, are more difficult to probe because most direct and indirect detection experiments lose sensitivity for DM mass above TeV scale."
"However, the next generation indirect detection experiment could probe DM mass up to 100 TeV region [20]."