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インサイト - ScientificComputing - # 隠れたオルター磁性

反転対称性を持つ物質における隠れたオルター磁性


核心概念
本稿では、全体としてはゼロの正味のスピン分極を持つが、空間的に分離された領域では非ゼロのスピン分極を持つ「隠れたオルター磁性」という新しい概念を提案する。
要約

PT対称性を持つ物質における隠れたオルター磁性

本論文は、PT対称性(空間反転対称性(P)と時間反転対称性(T)の複合対称性)を持つ反強磁性体における新しいタイプのスピン分極、「隠れたオルター磁性」を理論的に予測したものである。

隠れたスピン分極(HSP)の拡張

従来の非磁性中心対称化合物では、反転パートナーを形成する個々のセクターがすべて反転非対称である場合に、全体としてはゼロの正味のスピン分極を持つが、局所的には非ゼロのスピン分極を持つ「隠れたスピン分極(HSP)」が提案されている。本研究では、このHSPの概念をPT対称性を持つ反強磁性体に拡張し、全体としてはゼロの正味のスピン分極を持つが、2つの反転パートナーセクターのいずれかがオルター磁性を持つことで、実空間において非ゼロの局所スピン分極が生じる「隠れたオルター磁性」を提案する。

オルター磁性とは

オルター磁性は、ブリルアンゾーン(BZ)においてd波、g波、またはi波対称性を持つ交互のスピン分極を示す。オルター磁性は、従来の反強磁性とは異なり、正味の磁化を持たないが、逆向きのスピンを持つサブ格子は、並進または反転ではなく、回転/鏡映変換によって接続されている。

隠れたオルター磁性の概念

PT対称性を持つ磁性体において、反対のスピンを持つ磁性原子が、特定の原子層の局所環境内で回転または鏡映対称性によって相互接続されている場合、「局所的な」オルター磁性が生じ、運動量に依存したスピン分裂が生じる。2つの原子層(セクターAとセクターB)が[C2∥P]対称性によって接続されている場合、それらの局所スピン分極は反転するため、全体のスピン分極はゼロになる。

モデル計算による実証

第一原理計算を用いて、PT対称性を持つ二層Cr2SOがオルター磁性HSPを示す可能性があることを予測した。外部電場をz方向に印加することで、大域的なP対称性を破壊し、隠れたオルター磁性を分離して実験的に観測できることを示した。

結論と展望

本研究は、隠れたオルター磁性という新しい概念を提案し、PT対称性を持つ物質における新しいタイプのスピン分極の可能性を示した。この発見は、HSP研究に新たな視点を開き、隠れたオルター磁性を持つ実際の物質の探索、そしてオルター磁性HSPの興味深い物理現象の解明に向けた理論的・実験的研究を促進するものである。

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統計
Cr2SO単層の格子定数はa=b=3.66 Åである。 Cr2SO単層のバンドギャップは0.838 eVである。 Cr2SO単層の磁気異方性エネルギー(MAE)は-93 µeV/Crである。 S終端二層Cr2SOのバンドギャップは0.78 eVである。 O終端二層Cr2SOのバンドギャップは0.81 eVである。 電場E=0.03 V/Å、層間距離d=6.91 Åにおけるスピン分裂は約207 meVと推定される。 O終端二層Cr2SOの伝導帯/価電子帯におけるXとYの谷の谷分裂は約4.0/2.0 meVである。
引用
"If two altermagnets are symmetrically linked by space inversion symmetry (P), what interesting physical effects appear in this union with PT symmetry (the joint symmetry of P and T)?" "In this work, we propose the concept of hidden altermagnetism: the inversion partners consist of two separate altermagnetic sectors, which produces zero net spin polarization in total, but either of the two inversion-partner sectors possesses non-zero local spin polarization in the real space." "Our findings thus open new perspectives for the HSP research, and advance relevant theories and experiments to search for real material with hidden altermagnetism, and then to explore the intriguing physics of altermagnetic HSP."

抽出されたキーインサイト

by San-Dong Guo 場所 arxiv.org 11-22-2024

https://arxiv.org/pdf/2411.13795.pdf
Hidden altermagnetism

深掘り質問

他の物質系で隠れたオルター磁性を示すものはあるのだろうか?

隠れたオルター磁性を示す物質系は、Cr2SO以外にも多数存在すると考えられます。論文中でも言及されているように、重要なのは以下の2点です。 空間反転対称性を持つこと(PT対称性): これは、全体としてスピン分極がキャンセルされ、ゼロになるために必要です。 構成要素である各セクターが、局所的にオルター磁性を示すこと: これは、空間反転対称性を破る特定の原子層の局所的な環境において、反対のスピンを持つ磁性原子が回転または鏡映対称性によって接続されていることを意味します。 これを満たす物質系として、論文では、Cr2O2, V2Se2O, V2SeTeO, Fe2Se2O などの二次元オルター磁性体が、隠れたオルター磁性を示す可能性のある物質の構成要素として挙げられています。 さらに、これらの物質を基本単位として、論文中で提案されているような二層積層構造を設計することで、隠れたオルター磁性を示す物質系を人工的に創り出すことも可能であると考えられます。具体的には、以下のような物質系が考えられます。 遷移金属ダイカルコゲナイド: MoS2, WSe2 などの遷移金属ダイカルコゲナイドは、層状構造を持つため、異なる種類の原子層を積層することで、隠れたオルター磁性を示す可能性があります。 ペロブスカイト酸化物: ペロブスカイト酸化物は、構成元素や結晶構造の自由度が高いため、オルター磁性を示す組み合わせが見つかる可能性があります。 これらの物質系において、第一原理計算などを用いて隠れたオルター磁性を示すかどうかを検証していくことが重要です。

隠れたオルター磁性は、スピントロニクスデバイスにどのような応用が期待できるのだろうか?

隠れたオルター磁性は、従来の強磁性体や反強磁性体とは異なる特徴を持つため、スピントロニクスデバイスへの応用において、以下のような利点と可能性が期待されています。 高密度化: 隠れたオルター磁性は、全体として磁化を持たないため、隣接するデバイス間の相互作用を抑制できる可能性があります。これにより、デバイスの高密度化が可能となり、集積回路の小型化や高性能化に貢献する可能性があります。 低消費電力化: 隠れたオルター磁性体は、スピン分極を電場によって制御できる可能性があります。これは、従来の電流によるスピン制御と比較して、消費電力の低減につながる可能性があります。 高速動作: 反強磁性体材料は、強磁性体材料と比較して、テラヘルツ領域の高速スピンダイナミクスを示すことが知られています。隠れたオルター磁性体も、反強磁性体の一種であるため、高速動作するスピントロニクスデバイスへの応用が期待されます。 具体的な応用例としては、以下のようなものが考えられます。 不揮発性メモリ: 電場によってスピン分極状態を制御することで、高速かつ低消費電力な不揮発性メモリを実現できる可能性があります。 スピントランジスタ: スピン分極の方向を情報として利用するスピントランジスタは、従来の電荷ベースのトランジスタと比較して、高速動作や低消費電力化が期待されています。隠れたオルター磁性体は、スピントランジスタの材料としても有望です。 スピン波デバイス: 隠れたオルター磁性体は、スピン波と呼ばれる、磁気的な波の伝搬を制御できる可能性があります。スピン波は、情報伝達媒体として利用することで、低消費電力な情報処理デバイスを実現できる可能性があります。 これらの応用を実現するためには、隠れたオルター磁性を示す物質の探索と並行して、電場によるスピン分極の制御機構やスピン輸送特性など、基礎的な物性の解明が不可欠です。

隠れたオルター磁性の発見は、物質の対称性と物性との関係に関する理解をどのように深めるのだろうか?

隠れたオルター磁性の発見は、物質の対称性と物性の関係に関する理解を、以下のように深める重要な意義を持ちます。 対称性の概念の拡張: 従来、物質の物性は、その結晶構造が持つ対称性によって大きく規定されると考えられてきました。しかし、隠れたオルター磁性の発見は、空間的に分離された局所的な対称性と、全体としての対称性が異なる場合があることを示しており、物質の対称性に対する理解をより深めるものです。 新規物性発現機構の解明: 隠れたオルター磁性は、局所的なオルター磁性秩序と全体としての反強磁性秩序が共存することで発現する、新しいタイプのスピン分極現象です。この発見は、物質の対称性とスピン状態の間に、従来知られていなかった相関があることを示唆しており、新規物性発現機構の解明に繋がる可能性があります。 物質設計指針の提示: 隠れたオルター磁性を示す物質は、特定の対称性を持つ物質群から発見されています。この事実は、物質の対称性を考慮することで、隠れたオルター磁性を持つ物質だけでなく、他の新規物性を持つ物質を探索するための設計指針を与えてくれます。 特に、スピントロニクス分野においては、スピン流生成やスピン制御などの機能性と物質の対称性との関係が注目されています。隠れたオルター磁性の発見は、スピン依存的な物性と物質の対称性との関係を解明する上で、重要な知見を提供すると期待されます。 今後、隠れたオルター磁性を持つ物質の探索が進み、その物性解明が進むことで、物質科学における対称性と物性の関係に関する理解がより一層深まり、新しい機能性材料の開発に繋がることが期待されます。
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