本論文は、結晶性高分子固体の力学的挙動を、より大きな時間・空間スケールでシミュレーションするための、新規な粗視化モデルを提案している。従来の分子動力学(MD)シミュレーションは計算コストが高く、現実的な時間スケールでの変形を再現することが困難であった。本研究では、結晶ラメラ構造を模倣した粗視化粒子モデルと、変形に応じて破壊可能な結合を導入することで、この問題を克服している。
結晶性高分子固体は、冷却・固化の過程で階層的な構造を形成する。ミクロスケールでは結晶格子構造、メソスケールでは結晶ラメラ構造、そしてマクロスケールでは球晶構造が観察される。これらの構造は、高分子固体の力学的特性に大きく影響を与える。例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)の一軸延伸における応力-歪み曲線は、降伏点、ネック形成、歪み硬化など、特徴的な挙動を示す。これらの挙動は、ミクロ・メソスケールでの構造変形と密接に関係していると考えられている。
従来のMDシミュレーションでは、計算コストの制約から、限られた数の結晶ラメラ構造しか扱えず、現実的な歪み速度でのシミュレーションも困難であった。そこで本研究では、より大きな時間・空間スケールでのシミュレーションを可能にする、新規な粗視化モデルを提案している。
本研究では、結晶ラメラ構造を模倣した、粗視化粒子モデルを採用している。粒子の大きさは、結晶・非晶層の厚さとほぼ同等である。粒子は弾性球としてモデル化され、結合によってネットワーク構造を形成する。結合には、大きく伸長可能な「D結合(ductile bond)」と、大きな変形を加えると破壊される「B結合(brittle bond)」の2種類が導入されている。
D結合は、非晶領域の粒子の結合に用いられ、ゴム状ネットワークを形成する。一方、B結合は、結晶領域の粒子間の結合に用いられ、結晶層の硬さと脆さを表現する。B結合は、一定以上のエネルギーを超えると破壊されるように設計されており、これが巨視的な降伏挙動につながると考えられる。
提案モデルを用いた一軸延伸シミュレーションの結果、以下の点が明らかになった。
本研究では、破壊可能な結合を用いた結晶性高分子固体の粗視化シミュレーションモデルを提案した。このモデルは、従来のMDシミュレーションでは困難であった、現実的な時間・空間スケールでのシミュレーションを可能にする。シミュレーションの結果、提案モデルは、結晶性高分子固体の構造変化や力学的挙動を、定性的に再現できることが示された。
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