核心概念
本稿では、強磁性体/非磁性金属ヘテロ構造におけるスピンポンピングに伴う軌道ポンピングについて、第一原理計算を用いて解析し、特にフェルミ準位近傍におけるd軌道の有無が軌道モーメント注入効率に支配的な影響を与えることを明らかにした。
要約
金属ヘテロ構造における断熱スピンポンピングと軌道ポンピング: 第一原理計算による研究
論文情報
Pezo, A., Manchon, A., Go, D., Mokrousov, Y., & Jaffrès, H. (2024). Adiabatic Spin and Orbital Pumping in Metallic Heterostructures. arXiv preprint arXiv:2411.13319.
研究目的
本研究は、強磁性体/非磁性金属ヘテロ構造におけるスピンポンピングに伴う軌道モーメントの注入効率を、現実的な物質系を対象とした第一原理計算を用いて評価することを目的とする。
方法
- 密度汎関数理論(DFT)に基づく第一原理計算を用いて、Fe/NM、Co/NM、Ni/NM (NM=Ti, Cu, W, Pt, Au) の二層構造における電子状態を計算した。
- 得られたハミルトニアンを用いて、ケルディッシュ形式とウィグナー展開に基づく断熱ポンピング理論を適用し、スピンおよび軌道密度の非平衡成分を計算した。
主な結果
- スピンポンピング効率は、Ni/NM、Fe/NM、Co/NM の順に高く、これは先行研究と一致する。
- 軌道ポンピング効率は、フェルミ準位近傍にd状態を持つ金属(Ti, W, Pt)では高く、d状態を持たない金属(Cu, Au)では著しく低いことがわかった。
- 特に、Ni/Pt、Ni/W構造では、界面における大きなスピン軌道相互作用により、軌道ポンピングが著しく増強されることが示された。
結論
本研究の結果は、強磁性体/非磁性金属ヘテロ構造における軌道ポンピング現象を理解する上で重要な知見を提供する。特に、フェルミ準位近傍におけるd軌道の有無が、軌道モーメント注入効率に支配的な影響を与えることが明らかになった。
意義
本研究は、スピントロニクスデバイスにおける新規な物理現象の理解を深め、軌道角運動量を用いた次世代デバイスの開発に貢献するものである。
限界と今後の研究
- 本研究では、不純物散乱によるエネルギー広がりは考慮されているものの、詳細な散乱機構や界面の影響は完全には考慮されていない。
- より現実的なデバイス構造におけるスピン・軌道ポンピング現象を理解するためには、界面粗さや多結晶構造の影響を考慮した計算が必要となる。
統計
スピンポンピングによって生成される軌道モーメントは、Feでは約5%、Niでは約15%増加する。
Ni/Ti構造におけるスピンポンピングは、Fe/Ti構造と比較して約1桁効率が高い。
引用
"Orbital pumping is favored in metals with d states close to the Fermi level, such as Ti, Pt, and W, but is quenched in materials lacking such states, such as Cu and Au."
"Orbital injection is also favored in materials with strong spin-orbit coupling, leading to large orbital pumping in Ni/(Pt, W) bilayers."