Feリッチカゴメ磁石Fe3Snにおける異常ホール効果の外部抑制：統一理論への回帰

核心概念

Feリッチ組成にすることで、Fe3Snカゴメ磁石における異常ホール効果の外因性寄与を抑制し、温度に依存しない大きな異常ホール伝導率を実現できる。

要約

Feリッチカゴメ磁石Fe3Snにおける異常ホール効果の外部抑制：統一理論への回帰

本論文は、Feリッチカゴメ磁石Fe3Snにおける異常ホール効果（AHE）の外因性寄与の抑制に関する研究論文である。

本研究は、Feリッチ組成がFe3Snカゴメ磁石のAHEに及ぼす影響を調査し、外因性寄与を抑制して大きなAHEを実現することを目的とする。

Fe3±xSn (x = -0.2, 0, 0.3) の多結晶試料を作製し、XRD、BSE、EDSを用いて結晶構造と組成を評価した。
磁気特性と磁気輸送特性を測定し、AHEの温度依存性を調べた。
TYJモデルを用いて、AHEの内因性寄与と外因性寄与を分離した。

抽出されたキーインサイト

Extrinsic suppression of anomalous Hall effect in Fe-rich kagome magnet Fe3Sn

by Muhua Liu, L... 場所 arxiv.org 11-04-2024

https://arxiv.org/pdf/2411.00746.pdf

深掘り質問

Fe以外の元素を添加することで、Fe3SnのAHEをさらに制御できるだろうか？

Fe以外の元素を添加することで、Fe3Snの異常ホール効果(AHE)をさらに制御できる可能性は十分にあります。本論文で示されたように、AHEの外因性寄与、特にスキュー散乱は、不純物中心として働く元素のスピン軌道相互作用エネルギーに強く依存します。
Fe3SnにFe以外の元素を添加する場合、以下の2つの効果が期待されます。

キャリア密度の変化: 添加元素の種類や量によって、Fe3Snのキャリア密度、すなわちフェルミレベル近傍の状態密度が変化します。これにより、異常ホール伝導率(AHC)に寄与するベリー位相の大きさが変化し、AHEが制御される可能性があります。
スピン軌道相互作用の変化: 添加元素がFeやSnとは異なるスピン軌道相互作用エネルギーを持つ場合、スキュー散乱の大きさが変化し、AHEの外因性寄与が制御される可能性があります。特に、スピン軌道相互作用の強い元素を添加することで、AHEを大きく増強できる可能性も考えられます。

ただし、元素添加はFe3Snの結晶構造や磁気構造にも影響を与える可能性があり、AHEへの影響を予測することは容易ではありません。詳細な理論計算や実験による検証が必要となります。

スピン軌道相互作用エネルギーの大きさは、AHEの外因性寄与にどのような影響を与えるのだろうか？

スピン軌道相互作用エネルギーの大きさは、AHEの外因性寄与、特にスキュー散乱に大きな影響を与えます。
スキュー散乱とは、伝導電子が不純物原子に衝突する際に、スピン軌道相互作用によって進行方向が偏向される現象です。この偏向の大きさは、不純物原子のスピン軌道相互作用エネルギーに比例します。
スピン軌道相互作用エネルギーが大きいほど、スキュー散乱による電子の偏向が大きくなり、AHEの外因性寄与も大きくなります。本論文で示されたように、SnはFeに比べてスピン軌道相互作用エネルギーが大きいため、Sn-rich Fe3SnではFe-rich Fe3Snに比べてスキュー散乱が大きくなり、AHEが抑制される方向に働きます。
逆に、スピン軌道相互作用の小さい元素を不純物として導入すると、スキュー散乱は抑制され、AHEは増強される可能性があります。

本研究で得られた知見は、他のカゴメ磁石系材料にも適用できるだろうか？

本研究で得られた知見、すなわち「不純物元素のスピン軌道相互作用エネルギーの大きさがAHEの外因性寄与、特にスキュー散乱に大きな影響を与える」ことは、Fe3Sn以外のカゴメ磁石系材料にも適用できる可能性があります。
カゴメ磁石系材料は、その特異な結晶構造に由来する、大きなベリー曲率やそれに伴う大きなAHEを示すことが期待されています。しかしながら、実際には、材料中の不純物による外因性寄与の影響を受け、期待されるほどの大きなAHEが観測されない場合も少なくありません。
本研究で示された知見は、カゴメ磁石系材料においても、不純物元素の選択がAHEの制御に重要であることを示唆しています。スピン軌道相互作用の小さい元素を適切に選択することで、スキュー散乱を抑制し、AHEを増強できる可能性があります。
ただし、カゴメ磁石系材料によって、その電子構造や磁気構造は大きく異なるため、不純物元素の影響も一概には言えません。それぞれの材料系において、詳細な理論計算や実験による検証が必要となります。