リチウム電池の電気化学モデルを考慮した、系統連系電気自動車の最適エネルギーディスパッチ
核心概念
電気化学モデル(EM)を用いてリチウムイオン電池(LiB)の性能を正確に解釈・制御することで、V2G/BSS搭載の充電ステーションと連携した系統連系電気自動車の最適なエネルギーディスパッチを実現する。
要約
系統連系電気自動車の最適エネルギーディスパッチ:電気化学モデルの活用
本論文は、V2G/BSS搭載の充電ステーションと連携した系統連系電気自動車の最適エネルギーディスパッチモデルを提案する。従来の研究では、簡略化された電池モデルを用いるか、電池の性能を無視してマクロな制御ロジックの構築に焦点を当ててきた。しかし、V2G/BSS環境下では、頻繁な充放電により、電池の性能を正確に把握することが、電池の効率低下や劣化の抑制、安全性の確保に不可欠となる。
そこで本論文では、電池の内部化学反応に基づく、より精密なシミュレーション結果を提供する電気化学モデル(EM)に着目する。EMは、電池の性能と正確な制御を解釈する上で優位性を持ち、様々な条件下での適応性と安全性を前提としたLiBの能力活用を可能にする。
Optimal Energy Dispatch of Grid-Connected Electric Vehicle Considering Lithium Battery Electrochemical Model
EMをディスパッチに組み込むには、その複雑なメカニズムと、既存のソルバーでは統合が困難であるという問題を克服する必要がある。本論文では、EMとディスパッチの両方に再定式化と簡略化を施すことで、この課題に対処する。
1. 電力特性へのアクセス
EMモデルをディスパッチに直接組み込むことは計算負荷が高いため、本論文では、電力特性(電力ダイナミクス、熱ダイナミクス、SOPT)を通じてEMにアクセスするLPC(低次元投影)フレームワークを提案する。
電力ダイナミクス: 電圧とSOCの関係を近似し、エネルギー(kWh)と容量(Ah)の変換を正確に行う。
熱ダイナミクス: 電池温度の変動を近似し、利用可能な電力性能への影響を考慮する。
SOPT (State of Power-Thermal): 現状の電池状態における最大利用可能電力を定義し、安全かつ効率的なディスパッチを実現する。
2. LPCとディスパッチの統合
再帰的制約: LPCの結果を用いて、電池の性能制約を再帰的に表現する。
行列ベースの状態更新: 電力ダイナミクスにおける状態変数の逐次更新を、行列演算を用いた一括更新に変換することで、計算効率を向上させる。
本論文では、提案モデルをCSとBSSを統合したLES(Local Energy System)に適用し、系統連系EVのV2Gポテンシャルを活用しながら、EVBの高効率化と劣化抑制を実現する。
1. 充電EVのディスパッチ
車両行動分析: EVの1日の行動パターンを分析し、充電/放電状態を考慮した時間的特性をモデル化する。
充電EVの計画に基づくディスパッチ: EMを考慮した最適な充電/放電スケジュールを決定する。
2. バッテリー交換EVのディスパッチ
BSSの運用分析: BSSにおけるEVBの在庫管理、充電/放電、交換ロジックをモデル化する。
多層最適化モデル(M2)の設計: EMを効率的に活用するために、BSSの運用を仮想倉庫層、系統連系層、ビジネス層の3層に分割する。
EMの考慮: 各層におけるEVBの状態をEMに基づいて更新し、最適なディスパッチを実現する。
充電ドックの集約: 計算効率を向上させるため、複数の充電ドックをまとめて制御する。
深掘り質問
提案されたEMベースのディスパッチモデルは、異なる種類のEVBや充電インフラストラクチャにどのように適応できるか?
本論文で提案されたEMベースのディスパッチモデルは、異なる種類のEVBや充電インフラストラクチャにも適応できるように拡張することができます。
1. 異なる種類のEVBへの適応
パラメータ調整: 本モデルは、リチウムイオン電池の電気化学的特性を表現するパラメータを用いていますが、これらのパラメータは電池の種類(LFP、NCM、NCAなど)や容量、劣化状態によって異なります。 異なる種類のEVBに対応するためには、各電池に合わせたパラメータを用いてモデルを調整する必要があります。これは、電池メーカーから提供されるデータシートや、実験データに基づいて行うことができます。
LPCの再構築: 論文中のLPC (Linear Parameterization and Characterization)は、特定の電池タイプに対して構築されています。異なる種類の電池に対しては、同じ手順でEMシミュレーションを行い、新たなLPCを構築する必要があります。具体的には、パワーダイナミクス、ヒートダイナミクス、SOPTを、新たな電池の特性に合わせて再定義し、フィッティングする必要があります。
劣化状態の考慮: 電池の劣化状態は、内部抵抗の増加や容量の低下を引き起こし、EVBの性能に影響を与えます。劣化状態を考慮するためには、電池の劣化モデルを導入し、劣化度合いに応じてLPCのパラメータを動的に更新する必要があります。
2. 異なる充電インフラストラクチャへの適応
充電方式への対応: 本論文では、V2Gに対応した充電ステーションとバッテリー交換ステーションを想定していますが、充電方式(普通充電、急速充電、超急速充電など)によって、充電電流、充電時間、充電効率などが異なります。異なる充電インフラストラクチャに対応するためには、充電方式に応じた制約条件をモデルに追加する必要があります。例えば、急速充電の場合、大電流による発熱を考慮する必要があります。
通信プロトコルへの対応: V2Gを実現するためには、EVBと充電インフラストラクチャ間で、充電/放電電力やSOCなどの情報をリアルタイムに送受信する必要があります。異なる通信プロトコルに対応するためには、通信方式に応じたデータ形式に変換する処理などを実装する必要があります。
3. さらなる拡張
ワイヤレス充電への対応: ワイヤレス充電は、充電ケーブルの接続が不要なため、利便性が高い充電方式として期待されています。ワイヤレス充電に対応するためには、ワイヤレス充電の電力伝送効率や、充電中の車両の位置に関する制約条件をモデルに追加する必要があります。
自律分散型システムへの適用: 将来的には、EVが多数接続された自律分散型の電力システムが想定されます。このようなシステムにおいては、中央集権的な制御ではなく、各EVが自律的に判断して充電/放電を行う必要があります。本モデルを応用することで、各EVが自身の状態や電力市場の価格情報に基づいて、最適な充電/放電計画を立案することが可能になります。
本論文では、電池の劣化を抑制するためにSOCの許容範囲を狭めているが、経済性と電池寿命のトレードオフを最適化する方法は?
本論文では、EVBの劣化を抑制するためにSOCの許容範囲を[SOCEV,min, SOCEV,max]に制限していますが、これは経済性と電池寿命のトレードオフの関係にあります。経済性を重視して頻繁に充放電を行うと電池寿命が短くなり、逆に電池寿命を重視してSOCの許容範囲を狭くすると、V2Gによる電力系統への貢献度が低下する可能性があります。
経済性と電池寿命のトレードオフを最適化するためには、以下の様な方法が考えられます。
電池劣化コストの導入:
充放電深度 (DOD)、電流、温度などの要因に基づいて電池劣化を定量化し、経済性評価指標に劣化コストとして組み込みます。
劣化コストを最小化するように充放電計画を最適化することで、経済性と電池寿命のバランスを取ることができます。
多目的最適化:
経済性と電池寿命をそれぞれ目的関数とする多目的最適化問題として定式化します。
パレート最適解を求めることで、経済性と電池寿命のトレードオフ関係を明らかにし、意思決定者に最適な解を選択させることができます。
機械学習を用いた最適化:
電池の劣化状態や過去の運転データなどを用いて、機械学習モデルを構築します。
構築したモデルを用いて、経済性と電池寿命の両方を考慮した最適な充放電計画をリアルタイムに予測・実行します。
動的なSOC許容範囲の設定:
電力系統の状況や電池の劣化状態に応じて、SOCの許容範囲を動的に変更します。
例えば、電力系統が逼迫している場合には、SOCの許容範囲を広げてV2Gによる系統安定化に貢献し、電力系統に余裕がある場合には、SOCの許容範囲を狭くして電池寿命を優先します。
これらの方法を組み合わせることで、より高度な経済性と電池寿命のトレードオフ最適化が可能になります。
将来の電力システムにおける再生可能エネルギーの増加や電力需要の変化は、EVのエネルギーディスパッチにどのような影響を与えるか?
将来の電力システムにおいて、再生可能エネルギーの増加と電力需要の変化は、EVのエネルギーディスパッチに大きな影響を与えます。
1. 再生可能エネルギーの増加による影響
電力供給の変動性増加: 太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、天候に左右されるため、電力供給が不安定になるという課題があります。 EVのエネルギーディスパッチは、この再生可能エネルギーの変動を吸収し、電力系統の安定化に貢献する役割を担うことが期待されます。
時間帯別料金への対応: 再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、電力需要と供給のバランスに応じて時間帯別に料金が変動するダイナミックプライシングが導入される可能性があります。 EVのエネルギーディスパッチは、このような料金体系に対応し、充電コストを抑制しながら、系統の需給バランス調整にも貢献する必要があります。
2. 電力需要の変化による影響
ピークシフト・ピークカットへの貢献: EVの普及により、充電需要の増加が予想されます。特に、夜間 simultaneously に充電が集中すると、電力系統に大きな負荷がかかる可能性があります。 EVのエネルギーディスパッチは、充電時間を分散化し、ピーク需要を抑制するピークシフト・ピークカットに貢献する必要があります。
地域的な電力需要への対応: 地域によって電力需要の特性は異なります。例えば、オフィス街では昼間に電力需要が集中し、住宅街では夜間に電力需要が集中する傾向があります。 EVのエネルギーディスパッチは、地域的な電力需要の特性を考慮し、最適な充電/放電計画を立てる必要があります。
3. EVエネルギーディスパッチの高度化
予測技術の活用: 再生可能エネルギーの発電量や電力需要を正確に予測することで、より効率的かつ効果的なEVエネルギーディスパッチが可能になります。 AIや機械学習などの技術を活用した高精度な予測技術の開発が求められます。
V2Gの普及: V2Gは、EVに蓄えられた電力を電力系統に供給する技術であり、再生可能エネルギーの変動吸収や電力需給バランス調整に大きく貢献することが期待されています。 V2Gの普及促進には、技術的な課題解決だけでなく、EVユーザーへのインセンティブ設計なども重要となります。
アグリゲータの役割: 多数のEVを統合管理し、電力系統の調整力として活用するアグリゲータの役割が重要になります。 アグリゲータは、EVの充電/放電を最適化することで、電力系統の安定化や再生可能エネルギーの導入促進に貢献します。
これらの影響を踏まえ、EVのエネルギーディスパッチは、将来の電力システムにおいて重要な役割を担うことが予想されます。