核心概念
本稿では、SOLAS条約の要件に準拠した、船舶火災時の訓練と避難のための、産業メタバース向けの新しいVRベースのアプリケーション開発について詳述し、ゲーム化による訓練効果と課題を初期ユーザー評価を通じて考察する。
要約
論文の概要
本稿は、ACM Web3D 2024に採択された会議論文のプレプリントである。
DOI: 10.1145/3665318.3678229
研究の背景と目的
- 船舶火災は、人命損失、経済的損害、環境への影響が大きい深刻なリスクであり、人的ミスと不十分な訓練が主な原因である。
- SOLAS条約では、定期的な火災訓練の実施が義務付けられている。
- 近年、XR技術は、没入型でインタラクティブな乗組員訓練のための有望なソリューションとして注目されている。
- 本研究では、船舶火災訓練のための新しいVRベースのアプリケーションを開発し、訓練生の意思決定とリスクアセスメント能力を評価することを目的とする。
システム設計
規制の枠組み
- SOLAS条約を遵守し、火災検知、消火、個人用保護具(PPE)、避難手順、危険物処理に関する規制を組み込んでいる。
仮想シナリオ
- 火災発生率の高いエンジンルームと厨房をシナリオの舞台として選択。
- 訓練生は、火災の発見、船長への報告、火災報知器の起動、火災の鎮圧または避難に関する意思決定など、火災発生時の重要な対応を訓練する。
- 火災の強度レベルと場所を変えたステージを設け、ゲームの原則を取り入れることで、問題解決能力と学習効果を高める。
ハードウェアとソフトウェア
- Meta Oculus Rift S HMD
- Unity Editor version 2022.3.15f1
- XR Interaction Toolkit
- OpenXR
- Blender
実装
シナリオレベル
- レベル1:厨房での小規模火災(消火可能)
- レベル2:厨房での大規模火災(消火不可能)
- レベル3:エンジンルームでの火災(消火可能)
- レベル4:エンジンルームでの急速に激化する火災(消火不可能)
バーチャル環境
- 貨物船のモデルをインポートし、BlenderとHomeBuilderアドオンを使用して船室内部を構築。
- エンジンルームは、概念設計を利用し、VR対応のエンジンモデルをインポートして修正。
- 消火器、警報機、緊急電話などのインタラクティブな要素、火災と煙の効果をシミュレート。
UIの実装
- Unity XRの機能を使用してUIを設計。
- テキスト要素とボタンによるインタラクション、視覚的なフィードバックを提供。
実験
ユーザー評価
- Erasmus Mundus Master Program on Sustainable Ship and Shipping 4.0の学生10名が参加。
- 各レベルでの所要時間に基づいて、訓練生の習熟度を評価。
結果
- レベル1は、消火プロセスに時間がかかるため、最も時間がかかった。
- レベルが進むにつれて、訓練生はより速く移動し、火災訓練をよりよく理解できるようになった。
- VRやビデオゲームの経験が豊富な訓練生は、そうでない訓練生に比べて、コントロールや仮想環境に慣れるのが早かった。
- ほとんどの訓練生は、火災の重大性を評価し、消火するか避難するかを判断する意思決定スキルを向上させた。
結論と今後の課題
本稿では、将来の産業メタバースに向けた、ゲームベースのVRアプリケーションの開発と予備評価について述べた。
今後の課題
- マップメニューやシナリオのクイックツアーの追加
- より良いナビゲーションのための直感的なオーバーレイ
- 訓練生が特定のタスクを見逃した場合に備えた、リアルタイムのタスク追跡
- より高度なレンダリングパイプライン、詳細な船舶モデリング、乗り物酔い対策によるリアリズムの向上
- マルチプレイヤー機能、AI制御のキャラクター、数値流体力学(CFD)火災シミュレーションモデルの統合
統計
2011年から2015年の間、船舶火災事故は、他の船舶事故よりも132%多く死亡者を出し、船舶事故全体の24%を占めた。
レベル1の消火プロセスには45秒かかる(レベル3より28秒長い)。
引用
"Fires occur more often in the engine room and galley due to machinery, oil and electrical faults."
"The Industrial Metaverse [6] is a virtual environment where Industry 4.0/5.0 technologies (e.g., Extended Reality (XR), Industrial Internet of Things (IIoT), Cloud Computing and Artificial Intelligence (AI)) converge for immersive and collaborative industrial applications."