本稿は、2014年1月にイスラエルで施行された「価格端数処理規制」の影響を分析したものである。この規制は、小売業者が価格の端数を四捨五入することを義務付け、それまでの9セント台の価格設定を事実上禁止した。
政府は、この規制の目的として、(1) 端数税の廃止、(2) 不注意による超過支払いの防止、の2点を掲げていた。端数税とは、価格の端数が切り上げられることによって消費者が余分に支払う金額のことである。また、不注意による超過支払いとは、消費者が価格の末尾の数字に注意を払わないために小売業者に余分に支払ってしまう金額のことである。
分析の結果、政府は端数税の廃止には成功したものの、消費者は全体としてより多く支払うことになったことが明らかになった。これは、小売業者が99セント台の価格の代わりに90セント台の価格を設定するようになったためである。消費者は、価格の末尾の数字にあまり注意を払わないため、90セント台の価格を、実際よりも安く感じてしまう。その結果、需要が増加し、小売業者は利益を得ることができる。
本稿は、価格端数処理規制が、消費者の行動に意図せぬ影響を与えたことを示している。政府は、政策を立案する際には、その意図だけでなく、結果についても慎重に検討する必要がある。
本稿では、イスラエル中央統計局(CBS)の消費者物価指数(CPI)データ、ニールセンの小売スキャナーデータ、CBSの2013年家計支出調査データ、大手スーパーマーケットチェーンのスキャナーデータなど、複数のデータセットを用いて分析を行っている。
端数税の推計には、Lombra (2001)、Chande and Fisher (2003)、Whaples (2007)の手法を参考に、価格の末尾の数字の分布と買い物かごの大きさの分布を用いたシミュレーションを行っている。
心理的価格設定と不注意ペナルティの分析には、Strulov-Shlain (2021, 2023)のモデルを参考に、価格の端数処理規制の前後で、90セント台と99セント台の価格の割合がどのように変化したかを分析している。
本稿は、価格端数処理規制が、消費者の行動に意図せぬ影響を与えたことを示した点に新規性がある。また、複数のデータセットを用いて、イスラエルにおける価格設定行動を詳細に分析した点も貢献である。
本稿では、小売業者が価格を90セント台に切り上げる理由については、明確な結論を得ることができなかった。今後の研究では、小売業者の価格設定行動をより詳細に分析する必要がある。
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by Doron Sayag,... om arxiv.org 11-21-2024
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