本研究は、小GTPase Rac1の前シナプス部位と後シナプス部位における機能的役割の違いを明らかにしている。
実験では、前シナプス部位でRac1を阻害すると、空間作業記憶が選択的に損なわれるが、長期記憶は影響を受けないことを示した。一方、後シナプス部位でRac1を阻害すると、遠隔記憶が損なわれる一方で、作業記憶には影響がなかった。
電子顕微鏡解析の結果、前シナプス部位でのRac1阻害は、シナプス小胞の形態と分布に変化を引き起こすことが明らかになった。さらに、質量分析プロテオミクス解析から、活性化Rac1は前シナプス部位でキナーゼや細胞骨格関連タンパク質と相互作用し、それらのリン酸化を誘導することが示された。特に、シンタキシン-1やシナプトタグミン-1のリン酸化部位が同定され、これらがRac1シグナルによるシナプス小胞動態の調節に関与する可能性が示唆された。
以上の結果から、前シナプス部位のRac1は、リン酸化シグナルを介したシナプス小胞の動態調節を通じて、選択的に空間作業記憶を制御していることが明らかになった。
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