インクルーシブな理科教育における科学リテラシーの向上: 現職教員と教員志望者を対象とした自己学習マニュアル
Conceitos essenciais
すべての生徒が科学リテラシーを身につけるために、理科教育とインクルーシブ教育の視点を統合した「NinUフレームワーク」とその活用方法を紹介する。
Resumo
インクルーシブな理科教育における科学リテラシーの向上
本稿は、すべての生徒が科学リテラシーを身につけることを目指し、ドイツの理科教育研究者と実務家による共同団体「インクルーシブ理科教育ネットワーク(NinU)」が開発した「NinUフレームワーク」を紹介する。
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Towards Scientific Literacy in Inclusive Science Education
科学リテラシーは現代の理科教育の中心的な目標であり、あらゆるバックグラウンドを持つ生徒がアクセスできるものであるべきだ。しかし、多くの国で公平性に向けた改革が進められているにもかかわらず、実際の授業でインクルーシブな理科教育を実践することは依然として課題が多く、多くの教師は、すべての生徒にとってインクルーシブでアクセスしやすい授業を行うのに苦労している。
教師が教室での包括性と公平性に取り組むためには、理科教育の要求と、多様な生徒集団の要求の両方を理解する必要がある。また、この2つの要件を同時に満たす方法を知る必要もある。これまでのところ、教師からは、インクルーシブな理科の授業を計画し、振り返るための研修や能力が不足しているという報告があがっている。
NinUフレームワークは、理科教育とインクルーシブ教育の視点を体系的に組み合わせることで、このギャップを埋めることを目指している。このフレームワークは、理科教育の4つの主要な学習目標(関連する科学的問題についての推論、科学的内容の学習、科学の実践、科学についての学習)と、インクルーシブ教育の3つの側面(多様性の認識、障壁の認識、参加の促進)を体系的に組み合わせている(図1)。
フレームワークの適用においては、インクルーシブ教育の3つの側面(図1:I、II、III)は、構造的に相互に積み重なっていく。したがって、参加を可能にする側面に取り組むことは、既存の障壁が事前に認識されていなければ意味がない。障壁の認識は、多様性の認識に基づいている。したがって、NinUフレームワークを使用する際には、I~IIIの3つのステップを順番に行うことが重要となる。
理科教育の4つの学習目標(図1:A、B、C、D)のそれぞれについて、インクルーシブ教育の側面に関連する指導のポイントが示されている。
ステップ1: 科学的な問題設定
学習者が特別なもの、または時事的なものと捉えている科学的な問題は、状況的な興味を引き起こし、教えられている科学の内容に長期的に意味のある影響を与える可能性があるため、最初に授業の文脈を考えることが重要となる。したがって、「A. 関連する科学的問題についての推論」を扱うことは、理科の授業を計画し、振り返るための基礎として捉えるべきである。
ステップ2: 学習目標の選択
計画し、振り返る授業の焦点と目標に応じて、NinUフレームワーク内の別の列(図2:B、C、D)を、上から下まですべての指導のポイントについて取り組むことができる。必要であれば、残りの列(図2:B、C、D)についても、同様の手順で処理することができる。
NinUフレームワークの活用は、教師があらゆる関連する側面を念頭に置き、理科教育の特定の学習目標を意識して決定することを支援することを目的としている。
Perguntas Mais Profundas
NinUフレームワークは、他の教科の授業計画にも応用できるだろうか?
NinUフレームワークは、科学教育で一般的に重視される「科学的な知識を身につける」ことだけでなく、「科学的な課題について議論する」「科学的に探求する」「科学について学ぶ」という4つの学習目標を掲げ、それぞれに対して多様性を認識し、障壁を取り除き、参加を促すというインクルーシブ教育の視点を統合している点が特徴です。
この構造は、他の教科にも応用できる可能性があります。例えば、以下のように、各教科の学習目標に当てはめて考えることができます。
国語:
学習目標:文学作品を解釈する、自分の考えを文章で表現する、言葉の仕組みを理解する
多様性:異なる解釈、表現方法、学習経験
障壁:読解力の差、文章表現の苦手意識、学習環境の違い
参加:多様な解釈を認め合う、表現方法の選択肢を増やす、個別の学習支援
数学:
学習目標:数学的概念を理解する、問題解決能力を身につける、論理的に思考する
多様性:抽象的な思考の得意不得意、学習進度の差、数学への興味関心
障壁:計算力の差、数学的な表現の理解不足、学習意欲の低さ
参加:具体的な例を用いた説明、段階的な学習、数学の面白さを伝える工夫
社会:
学習目標:歴史や地理、公民など、社会の様々な事象について理解する、批判的に考察する、問題解決能力を身につける
多様性:興味関心の対象、文化的背景、情報収集能力
障壁:抽象的な概念の理解不足、多様な意見の受容、学習内容への関心の低さ
参加:身近な事例との関連付け、多様な資料の活用、主体的な学習活動
このように、NinUフレームワークの考え方を応用することで、他の教科においても、生徒の多様性を尊重し、すべての子どもたちが質の高い学びに参加できるインクルーシブな授業デザインが可能になるでしょう。
生徒の個別指導に重点を置きすぎると、授業全体のリズムが崩れてしまうことはないだろうか?
生徒の個別指導は、それぞれの学習ニーズに対応し、効果的な学びを促進するために重要ですが、行き過ぎた個別指導は、授業全体のリズムを崩し、他の生徒の学習機会を損なう可能性も孕んでいます。重要なのは、個別指導と一斉指導のバランスを意識し、授業デザインを工夫することです。
例えば、以下のポイントを意識することで、個別指導と一斉指導を効果的に両立させることができます。
授業デザインの段階で個別指導を組み込む: あ beforehand、個別に支援が必要な生徒や学習内容を把握し、授業展開や活動内容に個別指導の要素を組み込んでおく。
個別指導の時間と内容を明確にする: 個別指導を行う時間や内容をあらかじめ決めておくことで、授業全体の時間配分を意識し、他の生徒の学習時間を確保する。
個別指導の内容を他の生徒にも役立つものにする: 個別指導で扱う内容を、他の生徒にとっても復習や理解を深める機会となるように工夫する。
協働学習を取り入れる: 生徒同士が教え合い、学び合う協働学習を取り入れることで、自然な形で個別指導が行われる場面を作る。
ICTツールを活用する: デジタル教材や学習アプリなどを活用することで、生徒個々のペースに合わせた学習を支援し、教師が個別指導に割く時間を減らす。
さらに、**「ユニバーサルデザイン for ラーニング(UDL)」**の視点を授業に取り入れることも有効です。UDLとは、始めからあらゆる生徒にとって学びやすい環境をデザインする教育の考え方です。複数の方法で情報を提示する、生徒の表現方法の選択肢を増やす、学習意欲を高める工夫などを取り入れることで、個別指導の必要性を減らしながら、すべての生徒にとって質の高い学びを提供することができます。
科学技術が急速に発展する現代社会において、生徒が生涯にわたって学び続ける姿勢を育むためには、どのような授業デザインが有効だろうか?
科学技術が急速に発展し、変化の激しい現代社会において、子どもたちが生涯にわたって学び続けるためには、単に知識や技能を習得するだけでなく、**「学び方」を学び、「自ら学び続ける力」**を育むことが重要です。そのためには、従来の知識伝達型の授業デザインから、生徒の「知的好奇心」「探究心」「問題解決能力」を刺激する授業デザインへの転換が求められます。
具体的には、以下の要素を取り入れた授業デザインが考えられます。
実社会との関連性を意識させる: 科学技術が私たちの生活とどのように関わっているのか、具体的な事例を通して理解を深め、学びのモチベーションを高める。
探究的な学習活動を取り入れる: 生徒自身が課題を設定し、情報収集、分析、考察、表現などのプロセスを経験することで、問題解決能力や批判的思考力を育む。
オープンエンドな問いを設定する: 答えが一つとは限らない問いを投げかけることで、多様な視点や発想を引き出し、探究心を刺激する。
失敗から学ぶことを奨励する: 失敗は学びの過程として捉え、試行錯誤を通して、問題解決の方法や思考力を身につけることを奨励する。
協働学習を通してコミュニケーション能力を高める: 他の生徒と意見交換や議論を行う中で、多様な視点や考え方を理解し、コミュニケーション能力や協調性を育む。
ICTツールを効果的に活用する: インターネットやデジタル教材などを活用することで、最新の情報や多様な資料に触れる機会を提供し、生徒の主体的な学習を促進する。
さらに、**「メタ認知」**を促すことも重要です。「メタ認知」とは、自分の思考プロセスを客観的に捉え、理解することです。授業の中で、生徒に自分の学習プロセスを振り返らせ、学習方法を改善することで、より効果的な学び方を身につけることができます。
これらの要素を組み合わせることで、生徒たちは「自ら学び続ける力」を身につけ、変化の激しい社会を生き抜くために必要な資質・能力を育んでいくことができるでしょう。