Kurokawa, K., Fujii, K., Kobayashi, K., Imada, Y., Mori, M., Nakagawa, N., ... & Unzai, M. (2023). Protonation/deprotonation-driven switch for the redox stability of low-potential ferredoxin. Proceedings of the National Academy of Sciences, 120(14), e2215170120.
本研究は、低電位フェレドキシンにおける[4Fe-4S]クラスターの酸化還元電位制御機構を解明することを目的とした。
好熱性細菌Bacillus thermoproteolyticus由来の低電位[4Fe-4S]フェレドキシン(BtFd)を用いて、中性子結晶構造解析により[4Fe-4S]クラスター周辺の水素結合ネットワークを決定した。さらに、実験的に決定された水素結合ネットワークに基づいて密度汎関数理論(DFT)計算を行い、[4Fe-4S]クラスターの酸化還元安定性に対する水素結合の影響を調べた。また、BtFdとその変異体を用いた分光学的測定および電気化学的測定を行い、DFT計算の結果を検証した。
中性子結晶構造解析の結果、[4Fe-4S]クラスター近傍のAsp64の側鎖が、[4Fe-4S]クラスターと水素結合を形成する可能性が示唆された。DFT計算の結果、Asp64の側鎖がプロトン化されると、[4Fe-4S]クラスターの還元状態が不安定化することが示された。BtFdのAsp64を変異させた変異体を用いた分光学的測定および電気化学的測定の結果、Asp64の中性化変異は、[4Fe-4S]クラスターの酸化速度を低下させ、酸化還元電位を正方向にシフトさせることが明らかになった。
本研究の結果は、低電位フェレドキシンにおいて、[4Fe-4S]クラスター近傍のアスパラギン酸残基の側鎖のプロトン化状態が、還元状態の安定性に影響を与え、酸化還元電位を制御する重要な役割を果たしていることを示唆している。
本研究は、低電位フェレドキシンにおける[4Fe-4S]クラスターの酸化還元電位制御機構を明らかにした初めての報告であり、フェレドキシンが関与する様々な生物学的電子伝達反応の理解に大きく貢献するものである。
本研究では、BtFdとその変異体を用いて解析を行ったが、他の生物種由来のフェレドキシンにおいても同様の機構が働いているかどうかは不明である。今後、様々な生物種由来のフェレドキシンを用いて解析を進めることで、本研究で提唱された機構の普遍性を検証する必要がある。
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