核心概念
バクテリア由来のビタミンB12がS-アデノシルメチオニン(SAM)とホスファチジルコリン(PC)合成経路を活性化し、SBP-1を介してfat-7の発現を抑制することで、C. elegansの脂質含量を低下させる。さらに、ASM-3を介したシグナル伝達がPC合成経路を増強し、脂肪滴動態の変化を引き起こすことで、食事による脂質恒常性の調節に寄与する。
摘要
本研究では、C. elegansを用いて、異なる細菌食事が宿主の脂質代謝に及ぼす影響を調べた。
- Comamonas aquatica DA1877(DA)食を摂取したC. elegansは、Escherichia coli OP50(OP)食を摂取したものに比べて、中性脂質含量が大幅に減少していた。
- RNA-seq解析の結果、DA食は宿主の脂肪酸合成遺伝子の発現を抑制することが明らかになった。特に、Δ9脂肪酸デサチュラーゼ遺伝子fat-7の発現が著しく低下していた。
- 遺伝学的スクリーニングにより、ビタミンB12トランスポーターpmp-5、SAM合成酵素sams-1、ホスファチジルコリン(PC)合成酵素cept-1が、DA食によるfat-7抑制に関与することが判明した。
- ビタミンB12の添加はOP食でもfat-7の発現を抑制し、この効果はpmp-5、sams-1、cept-1変異体で消失した。これらの結果から、ビタミンB12-SAM-PC経路がfat-7の発現調節の中心的な役割を果たすことが示された。
- PCの蓄積は、転写因子SBP-1の核内局在を抑制することで、fat-7の発現を負に制御した。さらに、PCはSEIP-1の脂肪滴への局在を減少させ、脂肪滴動態に影響を及ぼした。
- 酸性スフィンゴミエリナーゼASM-3は、腸管から分泌されて体腔細胞(coelomocyte)に移行し、PC合成経路を増強することで、ビタミンB12による脂質低下に寄与していた。
以上の結果から、ビタミンB12に富むDA細菌食がSAM-PC経路を活性化し、SBP-1とASM-3を介して脂質代謝を包括的に制御することで、C. elegansの脂質含量を低下させることが明らかになった。
統計資料
DA食を摂取したC. elegansは、OP食を摂取したものに比べて、中性脂質(トリアシルグリセロール)レベルが有意に低下していた。
DA食を摂取したC. elegansでは、ビタミンB12、メチオニン、S-アデノシルメチオニン(SAM)、S-アデノシルホモシステイン(SAH)の代謝物レベルが上昇していた。
DA細菌ではメチオニンレベルが低かったが、C. elegansではビタミンB12依存的にSAM合成が促進されていた。
DA食を摂取したC. elegansでは、ホスファチジルコリン(PC)レベルが有意に上昇していた。
引述
"ビタミンB12は、SAM合成を促進し、PCの合成を活性化することで、fat-7の発現を抑制し、C. elegansの脂質含量を低下させる。"
"ASM-3は腸管から分泌されて体腔細胞に移行し、PC合成経路を増強することで、ビタミンB12による脂質低下に寄与する。"
"PCの蓄積は、転写因子SBP-1の核内局在を抑制し、fat-7の発現を負に制御する。さらに、PCはSEIP-1の脂肪滴への局在を減少させ、脂肪滴動態に影響を及ぼす。"