核心概念
ツリウム鉄ガーネット(TmIG)薄膜のスピン波(SW)伝搬特性は、基板の種類によって異なり、GGG基板上のTmIG薄膜では非相反的な磁気表面スピン波(MSSW)が、sGGG基板上のTmIG薄膜では等方的な前方体積スピン波(FVSW)が観測される。
摘要
研究目的
本研究は、フェリ磁性絶縁体であるツリウム鉄ガーネット(TmIG)薄膜のスピン波(SW)伝搬特性を、異なる基板(GGGおよびsGGG)を用いて調査することを目的とする。
実験方法
- パルスレーザー堆積法を用いて、GGGおよびsGGG基板上に厚さ7~34 nmのTmIG薄膜を作製した。
- 作製したTmIG薄膜の構造特性を、X線回折(XRD)、原子間力顕微鏡(AFM)、高分解能透過電子顕微鏡(HR-TEM)を用いて評価した。
- 磁気光学カー効果(MOKE)、振動試料磁力計(VSM)、強磁性共鳴(FMR)分光法を用いて、TmIG薄膜の磁気特性を調べた。
- SW電気伝送分光法を用いて、TmIG薄膜におけるMSSWおよびFVSWの伝搬特性(群速度、減衰長、相反性)を測定した。
主な結果
- GGG基板上に成長させたTmIG薄膜は、面内磁気異方性を示し、最大80 µmまで伝搬するMSSWを示した。これらのMSSWは、2~8 km/sの群速度と、印加磁場の強度に依存して20~50 µmの減衰長を示した。さらに、MSSWは非相反的な伝搬挙動を示した。
- 一方、sGGG基板上に成長させたTmIG薄膜は、垂直磁気異方性を示し、最大32 µmまで伝搬するFVSWを示した。FVSWは、相反的な伝搬挙動を示した。
結論
- TmIG薄膜のSW伝搬特性は、基板の種類に強く依存する。
- GGG基板上のTmIG薄膜におけるMSSWの非相反的な伝搬挙動は、マイクロ波回路におけるアイソレータなどの非相反的なマグノニクスデバイスへの応用として期待される。
- sGGG基板上のTmIG薄膜におけるFVSWの等方的な伝搬は、マグノンスピントロニクスデバイスにおけるスピン波伝送路としての利用が期待される。
意義
本研究は、TmIG薄膜のスピン波伝搬特性に対する基板の影響を明らかにしたものであり、今後のマグノニクスデバイス開発に重要な知見を与えるものである。
今後の展望
- TmIG薄膜におけるスキルミオンとスピン波の相互作用やトポロジカルマグノンの研究など、TmIGのトポロジカルスピンテクスチャを利用した新たな磁気現象の解明が期待される。
- 走査型NV磁力計を用いることで、TmIGにおける短波長(< 100 nm)のスピン波のマッピングが可能となり、マグノンスピントロニクスや量子情報処理における量子バスとしての応用が期待される。
統計資料
TmIG/GGG薄膜におけるMSSWの群速度は2~8 km/sであった。
TmIG/GGG薄膜におけるMSSWの減衰長は20~50 µmであった。
TmIG/sGGG薄膜におけるFVSWの減衰長は32 µmであった。
引述
"This is the first experimental measurement of SW nonreciprocity on TmIG/GGG films, expanding its applications in miniaturized, broad-band, and highly tunable isolators within microwave circuits for spin wave computing, a field where magnons serve as carriers, transporters, and processors of information."
"TmIG has the potential to host topological spin textures,[29] paving the way for investigating new magnetic phenomena such as the interaction between skyrmions and spin waves[47] or topological magnons."[48]