本論文では、化学反応の実行可能性と原料の入手可能性に関する不確実性を考慮したレトロシンセシス計画の新しい定式化を提案している。
まず、反応の実行可能性と原料の入手可能性を表す確率過程を導入し、これらの不確実性を定量化する。次に、少なくとも1つの合成計画が実行可能となる確率(Successful Synthesis Probability: SSP)を評価指標として定義する。
続いて、SSPを最大化するグリーディーアルゴリズム「retro-fallback」を提案する。retro-fallbackは、各中間体の最適な合成計画の成功確率を推定し、それを最大化するように中間体を選択的に展開する。
in-silicoベンチマークの結果から、retro-fallbackは既存のアルゴリズムと比べてSSPを大幅に向上させることが示された。特に、反応の実行可能性に相関がない場合に顕著な性能向上が見られた。これは、retro-fallbackが相関のない反応を活用してバックアップ計画を効果的に見つけ出すことができるためと考えられる。
一方で、合成計画の長さや品質などの他の指標については、retro-fallbackは既存アルゴリズムと同等かやや劣る結果となった。これは、SSP最大化に特化したretro-fallbackの設計に起因すると考えられる。
今後の課題としては、反応の実行可能性を高精度に予測するモデルの開発が重要である。また、SSP以外の指標も考慮したアルゴリズムの設計が望ましい。
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