核心概念
EU 製造業における企業買収分析を通じて、水平的統合は市場競争に有意な影響を与えない一方、垂直的統合は二重マージンの排除を通じてマークアップを低下させ、市場競争を促進する可能性が示唆される。
書誌情報
Bellucci, C., & Rungi, A. (2024). Procompetitive effects of vertical takeovers. Evidence from the European Union. arXiv preprint arXiv:2411.12412v1.
研究目的
本研究は、欧州連合(EU)における企業買収が、企業レベルのマークアップ(市場支配力の代理指標)やその他の業績指標に与える因果関係を検証することを目的とする。特に、垂直統合と水平統合でその影響が異なるかどうかを分析する。
方法論
2007年から2021年までのEU製造業企業の財務データ(Orbisデータベース)を用い、De Loecker and Warzynski (2012)の方法で企業レベルのマークアップを推定。買収の影響を分析するために、Callaway and Sant’Anna (2021) の提案する差の差分法を用いたパネルデータ分析を実施。この方法では、複数期間にわたる買収や、買収時期のばらつきを考慮することができる。さらに、傾向スコアマッチングを用いることで、買収対象企業の選別バイアスを制御している。
主な結果
EU製造業全体では、買収はマークアップや市場シェアに有意な影響を与えない。
垂直統合は、買収後、マークアップを平均0.7%低下させる効果がある。
垂直統合は、市場シェア(2.5%増)と事業規模(売上高2.9%増、変動費3.2%増)を増加させる。
水平統合は、マークアップや市場シェアに有意な影響を与えないが、売上高と変動費は増加する。
垂直統合によるマークアップ低下効果は、買収後、時間の経過とともに大きくなり、最長観測期間では約4%に達する。
結論
本研究の結果は、EUにおいて、水平的統合は市場競争に有意な影響を与えない一方、垂直的統合は二重マージンの排除を通じてマークアップを低下させ、市場競争を促進する可能性を示唆している。
意義
本研究は、EUにおける企業買収と市場競争の関係に関する実証的証拠を提供するものである。特に、垂直統合の競争促進効果を明らかにした点は、競争政策の在り方を考える上で重要な示唆を与える。
限界と今後の研究
本研究は、EU製造業企業のデータを用いた分析であり、他の地域や産業への一般化可能性については慎重な検討が必要である。また、二重マージンの排除メカニズムの詳細や、消費者への影響については、更なる研究が必要である。
统计
2007年から2021年にかけて、EU製造業において合計4,482件の企業買収が発生。
買収対象となった企業は、平均的に、買収されなかった企業よりも規模が大きく、資本集約度が高く、市場シェアも高かった。
垂直統合は、買収全体の約44%を占める。
水平統合は、買収全体の約21%を占める。