Core Concepts
電弱相互作用をするベクトルライクな閉じ込めダークセクターにおいて、Hパリティと呼ばれる新しい対称性により、ダークバリオン暗黒物質の原子核との弾性散乱断面積が抑制され、直接検出実験での信号が弱くなる。
本論文は、電弱相互作用をするベクトルライクな閉じ込めダークセクターにおける、ダークマターの直接検出に関する研究論文である。
研究の背景
宇宙におけるダークマターの存在は、様々な観測結果から確実視されているが、その正体は未だ解明されていない。ダークマターの候補の一つとして、強い相互作用によってクォークのように閉じ込められた複合粒子である「ダークバリオン」が挙げられる。ダークバリオンは、標準模型のバリオン数と同様に、ダークバリオン数という保存量によって安定化されていると考えられている。
ダークマターの直接検出実験は、ダークマターと原子核との相互作用を検出することで、ダークマターの正体を明らかにすることを目指している。しかし、これまでの実験では、ダークマターの兆候は得られておらず、ダークマターと標準模型との相互作用は非常に弱いことが示唆されている。
研究の内容
本研究では、ダーククォークが新しい閉じ込めゲージ群SU(Nc)と電弱ゲージ群SU(2)Lのベクトルライク表現の下で変換する、電弱相互作用をするベクトルライクな閉じ込めダークセクターを考察する。この理論では、Hパリティと呼ばれる新しい対称性が存在し、ダークバリオン暗黒物質の原子核との弾性散乱断面積が抑制されることを示す。
Hパリティは、SU(2)Lの下で変換する全ての場に作用するパリティ変換Sと、電弱ゲージボソンに作用する荷電共役変換Cとの積として定義される。Hパリティは、ダークセクターの閉じ込め前後において保存され、ダークバリオンの相互作用にも制限を与える。
Hパリティの帰結として、電荷を持つダークバリオンはHパリティの固有状態ではなくなるが、電荷を持たないダークバリオンはHパリティの固有状態となる。このため、電荷を持たないダークバリオンは、Hパリティによって禁じられる相互作用を持たない。
具体的には、Hパリティは、ダークバリオンの磁気双極子モーメント、電気双極子モーメント、電荷半径、およびアナポールモーメントを禁じる。これらの相互作用は、ダークマターの直接検出実験において重要な役割を果たすため、Hパリティによってこれらの相互作用が禁じられることは、ダークバリオン暗黒物質の直接検出信号が大きく抑制されることを意味する。
研究の結論
本研究の結果は、Hパリティを満たす電弱相互作用をするベクトルライクな閉じ込めダークセクターにおいて、ダークバリオン暗黒物質の直接検出信号が大きく抑制されることを示している。このことは、ダークマターの直接検出実験におけるこれまでの探索結果を自然に説明するものである。
また、本研究は、Hパリティを満たすダークセクターモデルの探索が、将来の加速器実験において重要な課題となることを示唆している。