Core Concepts
多結晶超伝導体における不可逆な臨界電流密度(Jc)劣化は、可逆的なひずみと不可逆的な損傷の複合的な影響によって誘起される渦糸ピン止めの抑制に起因する。
Abstract
研究概要
本論文は、多結晶超伝導体における、ひずみによって誘起される可逆的および不可逆的な臨界電流密度(Jc)劣化の根本的な物理メカニズムを解明することを目的とした、マルチスケール計算フレームワークを提案している。
研究背景
- 機械的負荷(ローレンツ力、熱応力など)は、超伝導体の損傷や臨界特性の劣化を引き起こし、超伝導デバイスの応用に深刻な脅威となる。
- 超伝導薄膜では、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて損傷の進行を直接観察することができる。
- しかし、銅マトリックスと数千本のフィラメントで構成されるNb3Sn線材のような多結晶超伝導体の場合、内部の多結晶構造の損傷を最先端の実験技術で検出することはできない。
- さらに、Nb3Snなどの多結晶超伝導体のひずみ感度のため、4.07 Kにおける固有軸ひずみεa=0.40%での臨界電流(Ic)の典型的な損失は約40%であり、クエンチ電流しきい値が低下し、安全かつ安定した動作に課題が生じる。
- ひずみによる臨界電流密度低下の根本的なメカニズムを明らかにすることは、超伝導多結晶の電磁特性を最適化し、対応する磁石の応用に直接影響を与えるため、緊急に重要である。
研究方法
- 本研究では、マルチスケール力学モデルと物理モデルを統合したマルチスケール計算フレームワークを導入した。
- 実験的なJcの「リバースエンジニアリング」を通じて、多結晶超伝導体における粒界の超伝導性とそれに伴う渦糸ピン止めに対するひずみの影響を明らかにした。
- さらに、力学シミュレーションを行うことなく、Jcに関する電磁気実験に基づいて内部損傷を近似することができる。
- また、計算フレームワークを用いて、二軸負荷を受けた多結晶超伝導体のJc劣化を解析した。
研究結果
- ひずみが増加すると粒界におけるクーパー対形成が抑制され、ピン止め効果が低下し、渦糸の動きが観察された。
- 不可逆的なひずみを超えると、粒界に沿って亀裂が発生・進展し、渦糸の流れを促進するフラックスフローチャネルとして機能する。
- この物理モデルを用いることで、力学シミュレーションを行うことなく、電磁気応答に基づいて超伝導多結晶の損傷を近似することができる。
- 二軸負荷の場合、不可逆的なJc劣化は、一軸引張負荷の場合とは異なる挙動を示し、Jcの減衰は機械的負荷モードに強く依存することが示された。
結論
- 本研究で提案された計算フレームワークは、超伝導性とそれに伴う渦糸ピン止めの機械的調整、および電磁気応答による超伝導多結晶の損傷の調査に新たな道を切り開くものである。
Stats
4.07 Kにおける固有軸ひずみεa=0.40%での臨界電流(Ic)の典型的な損失は約40%。
シミュレーションでは、平均粒径108 nm、面積1.8×1.8 μm2の二次元多結晶Nb3Snを想定。
ひずみは、二軸負荷の場合、J2^0.5=0.33%で開始。
最大主応力は、J2^0.5の増加に伴い線形的に増加し、ピーク値164 MPaに達する。
Quotes
"For polycrystalline superconductors like Nb3Sn wire consisting of a copper matrix and thousands of filaments [5], the damage of internal polycrystalline structures are unable to be detected by the state-of-the-art experimental techniques."
"The irreversible Jc degradation of polycrystalline superconductors is mainly attributed to the suppression of vortex pinning induced by both reversible strain and irreversible damage."
"The most striking finding is that, without mechanical simulations, the proposed physical model can be utilized to approximate the internal damage of superconducting polycrystals based on the electromagnetic experiments on Jc."