SARS-CoV-2ウイルスのヌクレオカプシド蛋白質の変異スペクトルにおける生物物理学的特性の変調

Core Concepts

SARS-CoV-2ウイルスのヌクレオカプシド蛋白質の変異スペクトルにおいて、アミノ酸置換は蛋白質の熱安定性、二次構造、オリゴマー状態、核酸結合、凝集体形成、液-液相分離などの生物物理学的特性を非局所的に変調する。

Abstract

本研究では、SARS-CoV-2ウイルスのゲノムデータベースを活用し、ヌクレオカプシド蛋白質の変異スペクトルにおける生物物理学的特性の変化を包括的に解析した。
まず、ヌクレオカプシド蛋白質の変異スペクトル全体にわたり、疎水性、極性、電荷などの非局所的な物理化学的特性を調べた。その結果、折りたたみ領域と比べて、無秩序領域では大きな変動が許容されるものの、リンカー領域の疎水性/極性領域や、C末端のN3領域と残りの領域の間では明確な差異が保たれていることが分かった。これらの非局所的な物理化学的特性は、関連コロナウイルスでも同様の傾向が見られ、機能的な制約を反映していると考えられる。
次に、変異体の生物物理学的特性を実験的に評価した。特に注目すべき変異は、デルタ株やオミクロン株の特徴的な変異である。これらの変異は、蛋白質の熱安定性、二次構造、オリゴマー化、核酸結合、凝集体形成、液-液相分離などの特性を非局所的に変調することが明らかになった。特に、オミクロン株の変異では、異なる無秩序領域の変異が相補的な効果を示し、蛋白質の会合特性を調整していることが示唆された。
以上より、SARS-CoV-2ウイルスのヌクレオカプシド蛋白質の変異スペクトルは、蛋白質の生物物理学的特性の大きな多様性を反映しており、ウイルスの進化に重要な役割を果たしていることが示唆された。

Stats

ヌクレオカプシド蛋白質の変異スペクトルにおいて、平均して5.2種類の異なるアミノ酸変異が無秩序領域で観察された。一方、折りたたみ領域では平均2.9種類の変異が観察された。
ヌクレオカプシド蛋白質の変異体のうち、N:D63Gは熱安定性を低下させ、N:G215Cは二次構造と会合状態を変化させた。
オミクロン株の変異体N:P13L/Δ31-33は液-液相分離を促進したが、N:R203K/G204Rは抑制した。これらの変異の組み合わせであるNoでは中間的な液-液相分離特性を示した。

Quotes

"ヌクレオカプシド蛋白質の変異スペクトルは、蛋白質の生物物理学的特性の大きな多様性を反映しており、ウイルスの進化に重要な役割を果たしていることが示唆された。"
"オミクロン株の変異体N:P13L/Δ31-33は液-液相分離を促進したが、N:R203K/G204Rは抑制した。これらの変異の組み合わせであるNoでは中間的な液-液相分離特性を示した。"

Key Insights Distilled From

Modulation of Biophysical Properties of Nucleocapsid Protein in the Mutant Spectrum of SARS-CoV-2

by Nguyen,A., Z... at www.biorxiv.org 11-22-2023

https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2023.11.21.568093v2

Deeper Inquiries

ヌクレオカプシド蛋白質の生物物理学的特性の変化がウイルスの感染性や病原性にどのように影響するのか?

ヌクレオカプシド蛋白質の生物物理学的特性の変化は、ウイルスの感染性や病原性に直接影響を与える可能性があります。例えば、特定の変異がタンパク質の熱安定性や二次構造、オリゴマー状態、粒子形成、液-液相分離などの特性に影響を与えることが示されています。これらの変化は、ウイルスの組み立てや相互作用に重要な役割を果たす可能性があります。また、特定の変異がウイルスの増殖や感染における効率を変化させることが報告されています。さらに、ヌクレオカプシド蛋白質の変異は、ウイルスの進化や適応にも影響を与える可能性があります。したがって、生物物理学的特性の変化は、ウイルスの生物学的機能や病原性に重要な役割を果たすことが考えられます。

ヌクレオカプシド蛋白質の無秩序領域における物理化学的特性の保存は、どのようなメカニズムで実現されているのか?

ヌクレオカプシド蛋白質の無秩序領域における物理化学的特性の保存は、複数のメカニズムによって実現されています。まず、無秩序領域の柔軟性と多様性によって、特定のアミノ酸の置換が許容されるため、特定の物理化学的特性が保存される可能性が高まります。さらに、無秩序領域内のアミノ酸組成によって、特定の性質が維持されることがあります。例えば、リンカー領域のSRリッチ領域やLリッチ領域など、特定の領域におけるアミノ酸組成の違いが、特定の機能や相互作用に影響を与える可能性があります。さらに、関連するコロナウイルスの研究からも、無秩序領域の物理化学的特性が進化的に保存されていることが示唆されています。これらのメカニズムによって、無秩序領域の物理化学的特性が保存されることが理解されています。

ヌクレオカプシド蛋白質の生物物理学的特性の変化は、ウイルスの宿主適応や新機能獲得にどのように寄与しているのか?

ヌクレオカプシド蛋白質の生物物理学的特性の変化は、ウイルスの宿主適応や新機能獲得に重要な役割を果たしています。例えば、特定の変異がヌクレオカプシド蛋白質の相互作用や組み立てに影響を与えることで、ウイルスが宿主細胞に適応しやすくなる可能性があります。さらに、特定の変異が新しい機能を獲得するための基盤となることがあります。例えば、特定の変異がタンパク質の構造や相互作用を変化させ、新しい生物学的機能を持つタンパク質を生み出す可能性があります。これにより、ウイルスが宿主細胞との相互作用を変化させ、新たな生物学的機能を獲得することができます。したがって、ヌクレオカプシド蛋白質の生物物理学的特性の変化は、ウイルスの宿主適応や新機能獲得に寄与する重要な要素となっています。