失業と政治への参加

核心概念

失業を経験すると、経済的な機会費用が減少し、政治活動に使える時間が増えるため、政党に入党したり、地方議員に立候補したりする可能性が高くなる。

要約

書誌情報: Barros, L., & Schmeißer, A. (2024). Job Loss and Political Entry. arXiv preprint arXiv:2410.23705v1.
研究目的: 本研究は、失業を経験することが個人の政治参加、特に政党入党や地方議員への立候補にどのような影響を与えるかを調査することを目的とする。
方法: 本研究では、2004年から2018年までのブラジルの正式な従業員、政党員、地方議員候補者に関する包括的な行政データを用いている。2009年から2011年の間に会社都合の解雇を経験した労働者を処置群とし、同時期に解雇を経験していない類似の労働者を対照群とする差の差分法を用いて、失業が政党入党や地方議員への立候補に与える影響を推定している。
主な結果:

会社都合の解雇を経験した労働者は、対照群と比較して、政党に入党する確率が有意に高くなる。この影響は、解雇後の選挙サイクルで発生し、その後2回の選挙サイクルでも統計的に有意なままである。
会社都合の解雇を経験した労働者は、対照群と比較して、地方議員に立候補する確率も有意に高くなる。この影響は時間の経過とともに大きくなり、解雇後の最初の選挙サイクルでは対照群平均より6％、その後2回の選挙サイクルでは28％に達する。
このような政治参加の増加は、解雇によって民間部門での機会費用が減少し、政治活動に使える時間が増えることで説明できる可能性がある。
特に、地方議員の給与が高い自治体や、解雇によって予想される所得損失が大きい個人において、解雇後の立候補への影響がより顕著に見られる。
また、解雇後に失業給付の受給資格がある労働者は、政党に入党したり、地方議員に立候補したりする可能性が高くなる。この影響は、高学歴の労働者でより大きく、解雇後の2回の選挙サイクルで、入党が6.2％、立候補が13.0％増加する。
結論: 本研究の結果は、失業が個人の政治参加を促進する可能性があり、経済的なショックが政治システムに影響を与える可能性があることを示唆している。
意義: 本研究は、政治参加の決定要因と経済ショックの政治的影響に関する文献に貢献するものである。本研究は、個人が政治に参加する動機となる経済的なトレードオフ、特に民間部門での機会費用の役割について新たな証拠を提供するものである。
限界と今後の研究: 本研究は、ブラジルの地方政治に焦点を当てているため、他の文脈での結果の一般化可能性はさらなる研究が必要である。また、本研究では、失業が政治参加に与える影響の長期的な影響を完全に捉えることはできていない。

統計

2020年には、ブラジル人の11%にあたる1600万人以上が政党員として登録されていた。
2000年から2020年の間に、約170万人がブラジルの地方選挙に立候補している。
ブラジルには、2024年時点で33の政党が登録されている。
地方議員の給与は、その自治体の平均賃金の約2.5倍である。
地方議員の給与は、人口1万人未満の自治体では州議会議員の給与の20％を上限とし、人口50万人以上の自治体では75％を上限とするなど、自治体の規模によって大きく異なる。
地方議員は、平均して月に4日しか議会に出席する必要がない。
2004年から2020年の選挙サイクルにおいて、地方議員候補者が受け取ったすべての選挙資金に関するデータによると、候補者の半数だけが私的資金を投入しており、その額は中央値で1,587レアル（392米ドル）であった。

抽出されたキーインサイト

Job Loss and Political Entry

by Laur... 場所 arxiv.org 11-01-2024

https://arxiv.org/pdf/2410.23705.pdf

深掘り質問

失業経験が政治参加に与える影響は、国の制度的背景や経済発展のレベルによってどのように異なるのだろうか？

失業経験が政治参加に与える影響は、国の制度的背景や経済発展のレベルによって大きく異なる可能性があります。以下に、具体的な例を挙げて説明します。
1. 制度的背景:

選挙制度: 比例代表制を採用している国では、小規模な政党や新しい政党にも議席獲得のチャンスがあるため、失業者をターゲットとした政党が生まれやすく、失業経験のある人が政治参加を通して不満を表明しやすい環境があります。一方、小選挙区制を採用している国では、既存の主要政党に有利なため、失業者の政治参加による影響は限定的になる可能性があります。
政党組織: 強固な組織力を持つ政党が多い国では、失業者のような新規参入者は既存のネットワークに食い込みにくく、政治参加へのハードルが高くなります。逆に、草の根レベルの活動が活発な政党が多い国では、失業者も比較的容易に政治活動に参加できる可能性があります。
社会保障制度: 手厚い失業給済や職業訓練制度が整っている国では、失業者が政治活動よりも再就職活動に専念する可能性が高いため、政治参加への影響は限定的になるでしょう。反対に、社会保障制度が脆弱な国では、失業者が政治活動を通して現状を変えようとするモチベーションが高まり、政治参加が活発化する可能性があります。
2. 経済発展のレベル:

発展途上国: 経済発展の途上にある国では、フォーマルな雇用機会が限られているため、失業者の多くはインフォーマルセクターで働くことを余儀なくされます。このような状況下では、失業者が政治参加を通して、より良い雇用機会や社会保障を求める動きが強まる可能性があります。
先進国: 先進国では、経済構造の変化や技術革新によって、特定のスキルを持つ労働者が失業するリスクが高まっています。このような状況下では、失業者が政治参加を通して、職業訓練の充実や再就職支援を求めるようになる可能性があります。
3. その他の要因:

文化: 政治に対する関心の高さや、政治参加を積極的に捉える文化を持つ国では、失業経験をきっかけに政治に関与する人が増える可能性があります。
歴史的背景: 過去に大きな経済危機や社会不安を経験した国では、失業者の政治参加に対する意識が高く、政治システムに影響を与える可能性があります。
上記はあくまで一例であり、失業経験が政治参加に与える影響は、国や地域、時代背景によって複雑に変化します。

政治参加の増加は、必ずしも政治の質の向上に繋がるとは限らないのではないか？例えば、失業者の不満を利用しようとするポピュリスト政党が台頭する可能性もあるのではないか？

お指摘の通り、政治参加の増加は、必ずしも政治の質の向上に繋がるわけではありません。失業者の不満を利用しようとするポピュリスト政党が台頭する可能性も十分考えられます。
ポピュリズムの台頭と失業者の不満:
ポピュリスト政党は、既存のエリート層や体制への不満を煽り、国民の不安や恐怖心を巧みに利用することで支持を広げます。経済状況が悪化し、失業者が増加する局面では、ポピュリスト政党は失業者の不満を政治的に利用しやすくなります。

単純な解決策の提示: ポピュリスト政党は、複雑な社会問題に対して、移民排斥や保護貿易など、単純で分かりやすい解決策を提示することが多く、失業問題の原因を特定の集団や政策に帰属させることで、人々の不安や怒りを煽り立てます。
感情的な訴求: ポピュリスト政党は、理性的な政策論争よりも、感情的な訴求を用いることが多く、失業者の不安や怒り、将来への絶望感につけ込み、熱狂的な支持を獲得しようとします。
既存の政治システムへの不信感の増幅: ポピュリスト政党は、既存の政治システムやエリート層が腐敗している、あるいは国民の声を無視していると主張し、政治不信を増幅させることで、既存の政治システムに対する幻滅を抱く失業者を取り込もうとします。
政治の質への影響:
ポピュリスト政党の台頭は、以下のような形で政治の質を低下させる可能性があります。

政策の質の低下: ポピュリスト政党は、短期的な人気取りや支持基盤の維持を優先するため、長期的な視点に立った政策を実行することが難しく、結果として政策の質が低下する可能性があります。
社会の分断: ポピュリスト政党は、敵と味方を明確に分断する排他的な言動をとることが多く、社会の分断を深め、対話や協調を阻害する可能性があります。
民主主義の弱体化: ポピュリスト政党は、司法やメディアなど、権力の監視機能を弱体化させようとする傾向があり、民主主義の根幹を揺るがす可能性があります。
政治参加の質の向上に向けて:
失業者の政治参加を、政治の質の向上に繋げていくためには、以下のような取り組みが重要となります。

失業問題への効果的な対策: 政治は、雇用創出や職業訓練など、失業問題に対する効果的な対策を講じることで、失業者の不満を軽減し、ポピュリスト政党の台頭を抑制する必要があります。
政治教育の充実: 批判的思考力や情報リテラシーを育む政治教育を充実させることで、ポピュリスト政党の扇動的な主張に惑わされないようにする必要があります。
市民社会の活性化: 多様な意見や立場を持つ人々が参加する市民社会を活性化することで、ポピュリスト政党の影響力を抑制し、健全な政治システムを維持する必要があります。
政治参加の増加は、民主主義にとって重要な要素ですが、同時に、ポピュリズムの台頭というリスクも孕んでいます。政治の質を向上させるためには、失業者の不満に真摯に向き合い、社会全体で課題解決に取り組んでいくことが重要です。

人工知能や自動化の進展により、将来的に失業者が増加することが予想されるが、このような社会変化は政治システムにどのような影響を与えるのだろうか？

人工知能（AI）や自動化の進展は、雇用市場に大きな変化をもたらし、将来的に失業者が増加することが懸念されています。この社会変化は、政治システムに対しても多大な影響を与える可能性があります。
1. ポピュリズムの台頭と社会不安の増大:
AIや自動化によって失業者が増加すると、将来への不安や既存の社会システムへの不満が高まり、ポピュリズムが台頭する土壌が生まれます。 特に、

製造業など、自動化の影響を受けやすい業種に従事する労働者
新しい技術を習得することが難しい、高齢の労働者
などは、失業の不安に直面しやすく、ポピュリスト政党の標的となりやすいと考えられます。
2. 政治の争点の変化:
AIや自動化が社会に浸透するにつれて、

労働市場の規制緩和と再雇用支援
ベーシックインカムなどの新しい社会保障制度
AI技術の倫理的な利用と規制
などが政治の主要な争点として浮上してくるでしょう。
3. 新しい政治勢力の台頭:
AIや自動化の影響を強く受ける世代や職業の労働者を代表する、新しい政治勢力が台頭する可能性があります。彼らは、既存の政党とは異なる視点から政策を訴え、政治システムに変化を促す可能性があります。
4. 政治参加の方法の変化:
インターネットやソーシャルメディアの普及により、人々はより容易に政治に参加できるようになりました。AIや自動化の影響を受ける人々は、これらのツールを活用して、自分たちの意見を表明したり、政治運動を組織したりする可能性があります。
5. 政府の役割の拡大:
AIや自動化によって失業者が増加した場合、政府は、

失業者の生活保障
再教育や職業訓練の提供
新しい産業の育成
など、従来以上に積極的な役割を担うことが求められるでしょう。
6. 国際政治への影響:
AIや自動化は、先進国だけでなく、途上国の雇用市場にも影響を与えるため、国際的な協力体制の構築が不可欠となります。
政治システムへの影響を最小限に抑えるためには:

教育システムの改革: AI時代に対応した教育システムを構築し、労働者が新しいスキルを身につけることができるようにする必要があります。
社会保障制度の見直し: 変化する労働市場に対応できるよう、社会保障制度を見直し、失業者の生活を支えるとともに、再就職を支援する必要があります。
AI技術の倫理的な利用: AI技術の開発と利用に関する倫理的なガイドラインを策定し、社会全体にとって有益な形でAIを活用していく必要があります。
AIや自動化の進展は、避けられない社会変化です。政治システムは、この変化に柔軟に対応し、社会の安定と発展を維持していく必要があります。