高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1を接種した乳牛における実験的感染と病原性

核心概念

高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1は、乳牛に感染し、乳生産量の減少や乳汁の性状変化などの臨床症状を引き起こす可能性があり、鳥類から哺乳類への感染リスクと対策の必要性を示唆している。

要約

2021年に米国で確認された高病原性鳥インフルエンザ（HPAI）H5N1ウイルスは、家禽、野鳥、野生哺乳類において死亡を引き起こし、2024年3月にはテキサス州の乳牛でも確認された。この事例は、複数の州での牛乳生産量の減少に関する調査がきっかけで発見され、最終的に14州で200以上の陽性牛群が確認された。感染した乳牛では、飼料摂取量の減少、ルーメン運動性の低下、乳生産量の減少、黄色い粘稠な乳汁などが観察された。診断の結果、乳汁と乳腺組織からウイルスRNAが検出され、肺胞上皮の変性と壊死、腺上皮の免疫反応陽性が確認された。

本研究では、ホルスタイン種の若い雌牛と泌乳牛にH5N1ウイルス遺伝子型B3.13を接種し、感染を再現することを試みた。若い雌牛にはエアロゾル呼吸経路で、泌乳牛には乳房内経路で接種を行った。その結果、若い雌牛では軽度の臨床症状が認められたが、ウイルス検出、病変、血清変換によって感染が確認された。泌乳牛では、ルーメン運動性の低下、乳汁性状の変化、乳生産量の減少などの臨床症状が認められた。感染は、乳汁中の高レベルのウイルスRNA検出、ウイルス分離、乳腺組織の病変、血清変換によって確認された。

この研究は、H5N1ウイルスが乳牛に感染し、乳生産に影響を与える可能性を示しており、更なる感染経路、病原性、伝播、予防・治療戦略の研究の基礎となるものである。

統計

2021年に米国で高病原性鳥インフルエンザ（HPAI）H5N1ウイルスが検出された。
2024年3月25日、テキサス州の乳牛でHPAI H5N1 clade 2.3.4.4bが確認された。
14の米国で200以上の陽性牛群が確認された。

引用

"A single transmission event, likely from birds, was followed by limited local transmission and onward horizontal transmission of H5N1 clade 2.3.4.4b genotype B3.13."
"Clinical disease was mild in heifers, but infection was confirmed by virus detection, lesions, and seroconversion."
"Clinical disease in lactating cows included decreased rumen motility, changes to milk appearance, and production losses."

抽出されたキーインサイト

Dairy cows inoculated with highly pathogenic avian influenza virus H5N1 - Nature

by Amy L. Baker... 場所 www.nature.com 10-15-2024

https://www.nature.com/articles/s41586-024-08166-6

深掘り質問

鳥インフルエンザウイルスに対するワクチンの有効性を高め、乳牛への感染を予防するためには、どのような研究開発が必要だろうか？

鳥インフルエンザウイルスに対するワクチンの有効性を高め、乳牛への感染を予防するためには、以下の研究開発が考えられます。

交差防御能の高いワクチンの開発:

今回、乳牛から検出されたH5N1ウイルスは、遺伝子型B3.13に属しており、これは従来の鳥インフルエンザワクチンでは十分な防御効果が期待できない可能性があります。
ウイルスの遺伝子変異を監視し、様々な遺伝子型の鳥インフルエンザウイルスに対して幅広く効果を発揮する、交差防御能の高いワクチンの開発が重要となります。
具体的には、逆遺伝学技術を用いて、様々な遺伝子型のウイルスに対応できるワクチン株を作製する、あるいは、ウイルスの共通抗原を標的とした組換えタンパク質ワクチンやウイルスベクターワクチンの開発などが考えられます。

乳牛への効果的なワクチン投与法の検討:

鳥類と乳牛では、生理学的特徴や免疫システムが異なるため、鳥類に有効なワクチンが、そのまま乳牛にも有効とは限りません。
乳牛に対して効果的なワクチン投与法（投与経路、投与量、投与回数など）を確立する必要があります。
例えば、筋肉注射だけでなく、経鼻投与やエアロゾル投与など、粘膜免疫を効果的に誘導できる投与法の検討が考えられます。

効果的なア adjuvant の開発:

ワクチンの効果を高めるために、アジュバントの併用が有効です。
乳牛に対して安全かつ効果的なアジュバントの開発や、既存のアジュバントの有効性評価が必要です。

野外における有効性と安全性の評価:

開発したワクチンは、実際に野外で使用する前に、十分な有効性と安全性の評価を行う必要があります。
大規模な臨床試験を実施し、乳牛における発症予防効果、ウイルス排泄抑制効果、安全性などを確認する必要があります。

これらの研究開発を推進することで、鳥インフルエンザウイルスに対するより効果的なワクチンが開発され、乳牛への感染リスクを低減できる可能性があります。

鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染するリスクは、今回の乳牛への感染事例によってどのように変化するだろうか？

今回の乳牛への感染事例は、鳥インフルエンザウイルスが哺乳類である乳牛にも感染し、病原性を示す可能性を示唆しており、警戒が必要です。
鳥インフルエンザウイルスは、通常、鳥類の間で感染しますが、遺伝子変異などによって哺乳類への感染能を獲得することがあります。
今回の事例では、乳牛からヒトへの感染は確認されていませんが、ウイルスが哺乳類に適応する過程で、ヒトへの感染力が高まる可能性も否定できません。
具体的には、以下の点が懸念されます。

ウイルス変異の促進: ウイルスが哺乳類の体内で複製を繰り返す過程で、ヒトへの感染性を高めるような遺伝子変異が生じる可能性があります。
新たな感染経路の出現: 従来の鳥インフルエンザウイルスは、主に感染した鳥の糞便などとの接触によってヒトに感染していましたが、哺乳類に適応したウイルスは、異なる感染経路を獲得する可能性があります。
ヒトへの病原性の変化: 哺乳類に適応したウイルスは、ヒトに対して異なる病原性を示す可能性があります。
現時点では、今回の乳牛への感染事例によって、ヒトへの感染リスクが直接的に高まったと断定することはできません。しかし、鳥インフルエンザウイルスの監視体制を強化し、ウイルスの遺伝子変異やヒトへの感染リスクを注視していく必要があります。

ウイルスが種を超えて感染するメカニズムを解明することで、将来的にどのような感染症対策が可能になるだろうか？

ウイルスが種を超えて感染するメカニズムを解明することは、将来的に以下のような感染症対策に役立つと考えられます。

新規感染症の発生予測と予防:

ウイルスが種を超えて感染するメカニズムを理解することで、どのウイルスが、どの動物種から、どのような条件下でヒトに感染する可能性が高いかを予測することが可能になります。
このような予測に基づいて、野生動物のサーベイランスやリスク評価を行い、動物由来感染症の発生を未然に防ぐ対策を講じることができます。

広域スペクトル抗ウイルス薬の開発:

ウイルスが種を超えて感染する際に利用する共通の宿主因子やウイルス側のメカニズムを標的とした、広域スペクトル抗ウイルス薬の開発が期待できます。
このような薬剤は、特定のウイルスだけでなく、様々なウイルスによる感染症に有効であるため、新型ウイルスの出現にも迅速に対応できます。

ワクチン開発の効率化:

ウイルスが種を超えて感染する際に変化する抗原や、種を超えて共通して認識される抗原を特定することで、より効果的なワクチンの開発が可能になります。
特に、普遍的なワクチンの開発は、将来的なパンデミックへの備えとして重要です。

ウイルスが種を超えて感染するメカニズムは複雑であり、多くの未解明な部分が残されています。しかし、最新の研究技術を用いることで、この複雑なメカニズムの解明が進み、将来的には、より効果的な感染症対策が可能になると期待されます。