核心概念
無意識的認知の研究において、事後選択は測定上の問題を抱えており、真の無意識処理を特定するのに不十分であるため、代わりに、直接測定と間接測定の機能的分離に焦点を当てるべきである。
本稿は、Stockartら(2024)による無意識的認知研究のベストプラクティスに関する提言を批判的に検討し、事後選択の問題点を指摘した上で、機能的分離の重要性を論じるものである。
Stockartらの提言の妥協点
Stockartらは、無意識的認知の有無を判断する際に、事後選択を用いることを推奨している。事後選択とは、例えば、被験者の主観的な視認性評価や客観的な弁別課題のパフォーマンスに基づいて、特定の刺激条件下での試行のみを分析対象とする手法である。しかし、この手法は、回帰効果やサンプリングの誤謬といった統計的な問題を抱えており、真の無意識処理を特定するのに不十分であることが指摘されている。
機能的分離の利点
本稿では、事後選択の代替案として、機能的分離に焦点を当てることを提案する。機能的分離とは、意識の直接測定(D)と間接測定(I)を2次元空間(D-I空間)にプロットし、両者の関係性を分析する手法である。この手法を用いることで、単純分離、不変分離、感度分離、二重分離といった、異なるタイプの分離パターンを明確に区別することができる。
事後選択の問題点
事後選択は、D-I空間における特定の点(D≈0)のみに焦点を当てた分析であり、データ全体の関係性を捉えきれていない。また、事後選択は測定の信頼性に大きく依存しており、測定誤差の影響を受けやすい。例えば、視認性評価の信頼性が低い場合、事後選択によって分析対象となる試行は、実際には意識的に処理されている可能性がある。
機能的分離の有効性
一方、機能的分離は、D-I空間全体の関係性を考慮するため、事後選択のような測定誤差の影響を受けにくい。また、二重分離のように、独立変数の操作によって直接測定と間接測定が反対方向に変化するパターンは、意識と無意識の処理の分離を示す強力な証拠となる。
結論
本稿は、無意識的認知の研究において、事後選択は測定上の問題を抱えており、真の無意識処理を特定するのに不十分であることを論じた。代わりに、直接測定と間接測定の機能的分離に焦点を当てることで、より信頼性の高い結論を得ることができると結論付ける。
統計
事後選択を用いた場合、プライミング効果は、視認性評価が最も低いカテゴリで最も強く観察される傾向がある。
しかし、これは、視認性評価の信頼性が低い場合、実際には意識的に処理されている試行が分析対象に含まれている可能性を示唆している。
一方、機能的分離を用いた場合、プライミング効果は、視認性評価が低い場合でも、弁別課題のパフォーマンスとは独立して観察されることがある。
これは、プライミング効果が無意識的な処理によって生じていることを示す強力な証拠となる。