核心概念
$^{48}$Caと$^{208}$Pbの中性子スキン厚さから対称エネルギーの傾きパラメータLを定量化する際に、対称核物質の非等質圧縮率Kの影響を考慮する必要がある。
本論文は、$^{48}$Caと$^{208}$Pbの中性子スキン厚さの実験データと既存の原子核模型との間に見られる矛盾について考察し、対称エネルギーの傾きパラメータLの値に及ぼす対称核物質の非等質圧縮率Kの影響について考察したものである。
背景
原子核の対称エネルギーは、アイソスピン対称核物質(SNM)を純粋な中性子物質(PNM)に変換するのに必要なエネルギーコストを表し、有限原子核や中性子星の性質を決定する上で重要な役割を果たす。
中性子スキン厚さ(NST)は、原子核内の中性子と陽子の空間分布の違いを表すものであり、対称エネルギーの傾きパラメータLと強い相関を持つことが知られている。
近年、CREXコラボレーションとPREX2コラボレーションによる実験により、$^{48}$Caと$^{208}$PbのNSTの新しい測定値が得られた。しかし、これらの測定値は、既存の原子核模型では両立しないことが示唆されており、原子核力の理解とエネルギー密度汎関数(EDF)に対する課題となっている。
研究内容
本研究では、様々な非等質圧縮率Kで分類されたSkyrmeエネルギー密度汎関数を用いて、有限原子核のバルク特性を評価した。
その結果、$^{208}$Pbから導かれた傾きパラメータLは、対称核物質の圧縮率に敏感である一方、$^{48}$Caから導かれた傾きパラメータLは、圧縮率の影響を受けにくいことが示唆された。
結論
本研究の結果は、対称エネルギーの傾きパラメータLを決定する際に、対称核物質の非等質圧縮率Kを考慮することの重要性を示唆している。
特に、K = 220 MeVで分類された有効パラメータセットを用いると、$^{48}$Caと$^{208}$Pbからほぼ重複するLの範囲が得られることがわかった。
今後の展望
本研究は、原子核の対称エネルギーと非等質圧縮率の関係を理解するための重要な一歩となるものである。
今後は、相対論的EDFの枠組みの中で、非等質圧縮率Kが傾きパラメータLの決定に及ぼす影響を再検討する必要がある。
また、電荷変化断面積、サブバリア融合断面積、非対称核における天体物理学的S因子など、様々な量と関連付けて、対称エネルギーをより精密に決定していく必要がある。
統計資料
K = 220 MeVのとき、∆R48np = 0.0009L + 0.1155 > 0.1155 fm。
K = 220 MeVのとき、∆R208np = 0.0019L + 0.0914 fm。
相対論的EDFから抽出された結果は、L = 106±37 MeVの範囲を網羅している。
非等質圧縮率K = 230 MeVの相対論的および非相対論的Skyrme EDFから導かれた値は、22.50 ≤L ≤51.55 MeVの狭い範囲を与える。