核心概念
本稿では、生体小動物における前臨床拡散MRIのベストプラクティスに関する推奨事項とガイドラインを、ハードウェア、動物の準備、画像シーケンス、データ処理、オープンサイエンスの観点から包括的に提示し、実験デザイン、データ取得、解析、解釈における複雑な意思決定のプロセスを支援することを目指しています。
要約
前臨床拡散MRIに関する推奨事項とガイドライン:生体小動物イメージング
本稿は、生体小動物における前臨床拡散MRI(dMRI)のベストプラクティスに関する包括的なガイドラインを提供することを目的としたレビュー論文である。
dMRIは、生体組織における水分子の拡散現象を利用して、組織の微細構造を非侵襲的に可視化する技術である。脳におけるdMRIは、「非侵襲的な仮想組織学」や「仮想解剖」とも呼ばれ、神経解剖学、発達神経科学、認知神経科学、システム神経科学、神経学、神経進化など、幅広い分野で応用されている。
前臨床dMRIは、ヒトのdMRI研究に対して、以下の4つの点で大きな付加価値を提供する。
組織学的分析との相関: dMRI信号、パラメータ、バイオマーカーの生物物理学的基盤を明らかにするために、組織学的分析やその他の侵襲的なイメージング測定との相関を調べることを可能にする。
高度なデータセットの取得: より強力な勾配と長いスキャン時間を利用できるため、臨床イメージングでは達成できない空間分解能や拡散強調範囲で、「極端な」データセットを取得することができる。
疾患と治療による組織変化の制御された研究: 動物モデルを使用することで、ヒトでは必ずしも可能ではない方法で、疾患、障害、治療における組織変化に対するdMRIの感度を制御された方法で研究することができる。
種間比較解剖学: ヒトと他の哺乳類の脳の違いを調査することを可能にする。
翻訳と検証に関する考慮事項
動物実験の結果をヒトin vivoに適切に解釈するためには、組織モデル、疾患、障害、ハードウェア、実験設定など、いくつかの側面を考慮する必要がある。
脳や他の臓器の基本的な構成要素は、哺乳類の間でほぼ保存されており、翻訳的なin vivo MRI研究の基礎となっている。しかし、げっ歯類と霊長類では、白質と灰白質の比率、皮質の折り畳み方、軸索の直径やミエリンの厚さなどが大きく異なり、dMRI信号の解釈に影響を与える可能性がある。
脳損傷モデル(外傷性脳損傷、てんかん、脳卒中、くも膜下出血、脳内出血、脊髄損傷、浮腫、脱髄/再ミエリン化など)は、細胞の外部刺激に対する反応が種間で類似しているため、高い翻訳可能性を有する。腫瘍モデルも、ある程度の翻訳可能性を示す場合がある。
種差
マウスモデル(マウスとラット)
ラットとマウスは、dMRIを含む生物医学研究で長年使用されてきた。利点としては、入手が容易であること、遺伝的背景が均一であること、ヒトの病態を模倣したトランスジェニックモデルが数多く存在すること、寿命が非常に短いことなどが挙げられる。
しかし、げっ歯類とヒトでは、脳の解剖学的構造が大きく異なるため、dMRIの結果を直接ヒトに外挿することには限界がある。
霊長類モデル
マーモセット、リスザル、マカクなどの非ヒト霊長類(NHP)は、ヒトと相同な白質および灰白質領域を多数有するため、神経科学研究に広く用いられている。NHPは、皮質の発達、脳回の形成、複雑な白質の調査に適している。
NHPの欠点は、飼育コストが高いこと、スキャナーへの搬送やスキャン前の準備に訓練が必要なこと、大型のNHPは小型のMRI装置ではスキャンできないことなどが挙げられる。
その他のモデル
ブタの脳は、ミエリン形成や発達がヒトの脳に似ており、発達、脳病変、トラクトグラフィーの検証に用いられている。フェレットなどの脳回を持つ他の動物は、精神疾患、認知、脳機能の研究や、トラクトグラフィーの検証に用いられている。